ローターベルグ( August Roterberg、1867-1928、写真)は、1890年代の半ばから1910年代半ばの約20年間、アメリカ・シカゴの有名なマジックショップでした。1900年当時のシカゴは人口170万人のアメリカ第2の大都市で、ローターベルグの店は当初Palmer House Hotelのロビーにありました。人口第一位のニューヨーク(340万人)にはマーティンカ(Martinka)という有名なマジックショップがありましたが、それに比肩する店でした。
ローターベルグ |
ローターベルグはドイツ・ハンブルグに生まれ16才の時アメリカに渡りました。20才台の半ばに、通信販売も含めたマジックショップとマジック本の出版を始めます。マジシャンのための英語による本(The Modern Wizard-1895年)を初めて出版したことで知られています。ローターベルグはアイディア豊かな人で、様々な新しいマジック道具を発表しています。「Multiplying Billiard Balls(増加するビリアードボール)」もこの店から初めて発売されましたが、ローターベルグ自身が発明したとも、店で働いていたGeorge F. Wrightが考案したとも言われています。
余談ながらこのマジックは、4年間の欧米巡業から帰国した松旭斎天一・一座が、明治39年(1906)6月の東京座公演の中で、洋行帰りの道具の一つとして天勝が「奇玉の現消」という名で演じ、天洋奇術研究所(現在のテンヨー)が昭和の初めに、「シカゴの四つ玉」として発売し今に続いています。
アメリカを代表するマジシャンの一人であるブラックストーン(初代)は、若い頃、シカゴの家具会社の見習いでしたが、ローターベルグから箱物マジックの製作を依頼されたといわれています。
ローターベルグのマジックショップは、アメリカ中西部のプロマジシャンはもちろんのこと、熱心なアマチュアマジシャンからも大変な支持を受けていました。
しかし1908年に通販部門をRalph W. Readに売却、1916年にはマジックショップをA & C. Felsmanに売却し、晩年をカリフォルニアで過ごしました。
SUPPLEMENTARY LIST of NEW IDEAS IN MAGIC |
上のマジックカタログは1915年に発行された小冊子で、”SUPPLEMENTARY LIST of NEW IDEAS IN MAGIC”(マジックのニュー・アイディアの補足リスト)のタイトルが付けられています。この前に分厚いカタログが出されており、その補足版というわけです。
タバコのマジック |
ローターベルグのカタログのよさは、何といってもきれいな挿絵と丁寧な説明文にあります。図の”NOVEL CIGARETTE PRODUCTION”や、”APPEARING, VANISHING AND REAPPEARING CIGARETTE”は、「煙草の出現」や「煙草の消滅」の名で、日本でも天洋で戦前から戦後の長い期間、売られていたものと同じです。
THE NEW FLAG VASE |
「新・旗と筒」は次のようなマジックです。ニッケル製の筒が空であることを示した後、筒の中に水を注ぎます。すると筒の中から万国旗が現れ(もちろん乾いた状態で)、大きなグラスとワインボトルが出現します。ワインのコルクが抜かれ本物のワインがグラスに注がれます。さらに筒からカラフルなリボンが取り出され、最後に筒を逆さまにすると、最初に注いだ水が出てくるのです。