土屋理義

マジックの切手
第26回

メリエスの映画魔術


 最初の”Cinemagician”(映画の魔術師)と呼ばれているジョルジュ・メリエス(1861-1938)の切手です。


生誕100年記念のメリエスの切手・1961年フランス発行


ジョルジュ・メリエス(肖像写真)


 メリエスはフランスのパリで生まれました。 若い頃はプロのマジシャンでしたが、やがて父から受け継いだ資産を元に、ロベール・ウーダン劇場を買い取り、イリュージョンやマジックを交えた喜劇などを公演、自分も出演しています。1896年からは出現したばかりの映画を、興行の一部として上映、さらに映画製作を始め、その過程で撮影方法を工夫したり、フィルムを編集することでマジックが出来ることに気づきました。多重露光、低速度撮影、ストップモーションなどを多用したのです。

 1901年には、テーブルの上にあるメリエス自身の頭が、フイゴを押すことで次第に巨大化していき、最後には爆発して粉々になってしまう「ゴム頭の男」を発表しました。これは台車に載せたカメラを前方に移動させて撮影、別画面を二重露光して作成しています。




「ゴム頭の男」の一場面


 そして翌1902年、有名な「月世界旅行」を発表し大評判となります。大きな砲弾のような宇宙船に六人の科学者を乗せて、巨大な大砲で月に打ち込み、月の探検をするというわずか14分の物語です。トゲトゲの奇妙な月星人たちとの遭遇や戦いを経て、命からがら地球に帰還するまでの不思議な世界が展開されます。切手には、宇宙船の砲弾が大砲に込められ、月に向かって発射される直前の絵が描かれています。


映画の中で「宇宙船が月に命中した場面」を描いた漫画


 しかし同業者による同様の映画が次々と作られ、さらに無声映画がトーキーに変わるにつれ、メリエスの映画は人気を失い、財政破たんによりロベール・ウーダン劇場も手放します。ついには破産による失意から多くの映画作品を自ら焼却、晩年は寂しい日々をおくったのでした。

(注1)「ゴム頭の男」と「月世界旅行」の映画は、youtubeでご覧になれます。

(注2)パリの駅の大時計のネジ巻き係をしていたヒューゴ少年が、修理した「機械人形」の秘密から、隠遁生活をしていた晩年のメリエスに出会う映画「ヒューゴの不思議な発明」(原題:”HUGO”、2011年パラマウント映画・日本公開2012年)は感動の秀作で、DVDで購入することが出来ます。

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