今回、唯一の商業雑誌として刊行されてきた「ザ・マジック(東京堂出版・季刊)」が休刊になった。20年の長きに渡って80号まで続いたこの雑誌は、往年の「奇術研究(力書房・季刊)」に並ぶものになっていただけに残念なことである。
雑誌は会員組織の機関誌として会費で賄われていない限りは発行部数が死命を制する。発刊しても数年で廃刊になる商業雑誌は枚挙にいとまがない。そんな中で部数が限られたザ・マジック誌が20年続いたのはむしろ驚くべきことだったともいえるが、この状況をどう考えたらいいだろうか。今後、新雑誌がいつどのような形で出現するかはわからないが、それに備え問題を整理しておくのは無駄ではないだろう。
少し実態を確認してみよう。米国の奇術専門誌にGenii(ジニー)というのがある。これは代表的な商業奇術専門雑誌とされている。正確にいえばマジックショップ以外の店頭では売っておらず、定期購読者を対象にしているので一般的な商業雑誌とするには若干無理があるが、申込みさえすれば誰でもが購読できるので会員誌や同人誌とは明らかに異なるインデペンデント・マガジンなのである。
以下はGenii誌の発行部数である。(法律で定められている当局への報告数値で、2008年10月1日時点のもの)。
大雑把にいえばGeniiが6千部、それに対し今回休刊になったザ・マジック誌はそれには大きく及ばなかったと言われている。主たる購読者は前者は米国と英国なのに対し、後者は日本だけなので、愛好家が同じ比率でいるとすれば、発行部数は人口比に近くてもいいだろう(他の条件も同等として)。米国の人口306百万に英国の60百万を足した合計人口は366百万だから、日本の人口127百万の約3倍近いので、ザ・マジック誌はハンデキャップがありながらもかなり健闘したという解釈ができそうだ。(日本では再販制度があるため返本も多く発行数と販売数に差が生じるなど、同条件では比較できないが・・・)
ページ当りの値段は何と4倍ということになる。それにもかかわらず、同じ水準で売れた大きな理由は2つありそうだ。
収益があがらない理由は、部数が絶対的に少なかったことと、部数が少ないが故に広告出稿が望めなかったことの2点で説明が可能である(制作固定費を回収できる部数さえ超えればあとは収益が部数に比例して増えるのが出版物の収益構造となっている)。
記事の内容や印刷製本のやり方の違い、加えて出版流通の違い等、条件差はいろいろあるのは当然であるが、本質的には愛好家の層が限られているためそれらの工夫による増販効果というのは多くを望むべくもない。ただ、内容に手を抜いたり、惰性で発行したりしていると購読者は当然のことながら離れていくのが雑誌制作の本質である。
では増えていると思われる愛好家層が新たな読者として加わらないのは何故だろう。日本で奇術雑誌はどうして根付かないのだろう。
多かれ少なかれすべて当たっているはずだが、一番重要なのは「2」である。それにはショップや規模の小さなクラブではニーズに応えられない部分を見極め、その部分を中心に編集することである。
などが必要だ。
特に目新しいことを述べているわけではないが、実は、2と3は意外に難しくGenii誌もMAGIC誌もあまり手をつけてない分野である。というのは取材対象の協力がかかせないためどうしても取材先の肩をもった記事になりがちだからだ。
むしろ注意すべき盲点はそうではない。それはどういう記事を載せるかということ以上に、どういう記事は載せないように注意すべきなのかということである。例えば、
これらは読者の興味を引くよりも近づけがたさを印象付けるだけである。どの世界でも上手い人や知識豊富な人が、教えることもうまいかというとそうではないことはよく言われ、また人が集められる講演者というのもしかりである。そして執筆者や編集内容をオーガナイズすることこそが制作主体となる人の力量として求められるのである。換言すれば寄せ集めの持ち寄り原稿では成功はおぼつかなく、出版・編集サイドとしての志なり、寄稿者に対し是々非々を明確にいえるだけのものを持っていることが重要で、正に先を見据えた経営感覚が大事という当たり前の結論にしかならない。
ここ「ザ・マジック」が発行されていた20年の間にはマジックブームといわれるものが何回かあったとされる。読者は多くはないにせよ、少なくはなっていないはずだ。今後の奇術雑誌の再興に期待したい。