<解説>
これはカクテルトリックと呼ばれる種を基に、複数の研究家のアイディアも活用し、それにさらなる工夫による改良を加えたものです。
原理は平凡な数理マジックの種の一つにすぎませんが、演出の仕方によっては神秘的な奇術になります。
<効果>
宮中晩餐会に招く予定の有名人の表が示されています。
10卓に各10名の名前、合計100名が書かれています。
ここで、観客がこの晩餐会に招かれることになったという話になり、どの有名人のテーブルに入りたいかを考えてもらいます。
そして、その有名人の名前を書き留めてもらいます。
次に新しい席次を印刷した物が示されてます。
観客はその中からお目当ての有名人のいるテーブルをみつけます。
すると術者も一人の有名人の名前を書き留めますが、最後に書いたものをワン、ツー、スリーで開くと書いた名前が一致しています。
<原理>
登場する名前は合計100人分です。
これを10×10のマトリックスにして、特定の名前が、どの列にあるか、どの行にあるかを聞けば、それを当てることができるのは当然です。
この奇術の種の原理はただそれだけの仕組みなのですが、その原理を上手にカモフラージュする方法がいろいろ考えられ、それらの作戦が成功すれば、なかなかいい奇術としての効果を発揮します。
<用具>
1.白いカード10枚が使われます。
1枚に10人ずつの有名人の名前が書いてあります。順序は一見でたらめです。
この10枚のカードの名前の表を<第1表>に示します。
この白地のカードの裏面には「晩餐会席次」との文字が書かれており、その真下にあたる中央部分に菊のご紋章が描かれています。<写真1>
このご紋章は正しい日本皇室のご紋(16八重菊)を使用することはご遠慮すべきですとの考え方から12花弁の菊に描かれています。
そして、菊の花弁を時計に見立てると、数字に相当する時計の短針の1~10時の位置の花弁の外側の二箇所を鉛筆で塗りつぶしてあるので、この印により裏からキーナンバーを読み取ることができる仕掛けになっています。
(Reader Deckと呼ばれる特殊カードの印と同じ原理、<写真2>)なお、このキーナンバーはその中に書かれている外国人招待客(後述)に関連づけられています。
<第1表>晩餐会席次:クリックで拡大
2.別に<第2表>に示すような招待客100人の表も使います、これを晩餐会新席次表とします。
<第2表>晩餐会新席次表:クリックで拡大
3.演出のためにB5くらいのカード3枚とフェルトペンを用意します。
4.その3枚のうちの1枚には有名人の10×10のマトリックスを貼っておきます。
<第3表>これは最後にアンチョコの役割を果たします。
<第3表>アンチョコの表:クリックで拡大
<手順>
- まず、宮中晩餐会に招待する候補者の10人が示されたカード10枚を取り出します。
左手に揃えて10枚を裏向きに持つと、上に「晩餐会席次」と書かれています。
そしてその下には菊のマークが描かれています。
次にそれを右手で一枚ずつ表向きにして観客の前に一山に重ねていきます。
そして、「近々宮中晩餐会が予定されており、いま、その準備が進められています。
ここに晩餐会の招待客の表がありますが、まだ、座席にゆとりがありそうなので、もう少し招待客を増やすことを検討することになりました。
そして、主催者はあなたを招待したいと考えています。
だいたい10人くらいが座れる丸テーブルが10卓あるのですが、ご存知の名前が多いと思います。
そこで、あなたをご招待するに際して、そっとあなたがお好きな人の居るテーブルにあなたをご案内したいと考えています。
それでは、この10枚の座席表をお手に取り、一枚ずつご覧になって、「ぜひこの人の隣になりたい!」という人を心密かに選んでください。
」と言います。
なお、このとき、「リストに外国人ゲストの名前がありますが、外国人は日本語が話せないので、選ぶのは日本の俳優、歌手、政治家、俳優、スポーツ選手などがいいでしょう。」と言い、
術者はB5のカードとフェルトペンを観客に手渡し、後ろを向きます。
「それでは、そのカードにお隣に座っていただきたい有名人のお名前をお書きになり、裏向きにしてテーブルに置いてください。」と言いいます。
- 「お選びの有名人のいる席次表のカードをもう一度よくご覧ください。
お目当ての方以外にもこの人と話をしてみたいという方がまだおられるでしょう。席次表の真ん中あたりに外国人の招待客がいるのがおわかりと思います。この方の隣に座られる人はその方の母国語で会話をしなければならないので大変です。」と説明します。
この外国語の話が、この奇術の種のカモフラ―ジュになっています。
実は外国人の名前は、以下のとおり1から10までの数の語呂合わせになっています。
1.イ・チャン・ホ (韓国人)
2.ニコラ・サルコジ (フランス人)
3.サラ・ブライトマン (イギリス人)
4.ぺ・ヨンジン (韓国人)
5.カルロス・ゴーン (フランス人)
6.ジョン・ロックフェラー (アメリカ人)
7.ナナ・ムスクーリ (ギリシャ人)
8.バラック・オバマ (アメリカ人)
9.ヒラリー・クリントン (アメリカ人)
10.胡錦濤 (中国人)
- さらに話を続けます。
「では、その大切な有名人の名前が書かれているカードをそのままテーブルに置いてください。
そして、そのほかのカードは全部重ねて一つまとめてその上の重ねておいてください。」と言い、術者は前を向きます。
- 次の話が大切です。
「さて、招待者を増やすことにした関係で、事務局は座席表を新たに再作成することにしました。これがその新しい席次表です。」と言い、
テーブルの上にある10枚のカードの山を取りあげて、無関心の風を装い、テーブルの脇に無雑作に片づけて、代わりに一枚の晩餐会新席次表を観客の前に置きます。
ただし、このタイミングで、10枚のカードの裏の菊のマークを見ることができるので、そのマ-クから数字を読み取って覚えておきます。
例えば、観客が選んだ有名人が仮に「米倉涼子」であったとすれば、
術者は8時の位置に鉛筆のマークを発見することになり、その「8」が大切なキーナンバーになります。
- 「その新しい座席カードは一枚の表になっていますが、招待客の組み合わせを変更したようですので、よくご覧になり、お目当ての有名人のいるテーブルを探してみてくだい。」と言い、術者は手にB5のカードとフェルトペンを持ち、再び後ろを向きます。
- ここで話を続けます。
「お目当ての有名人のいるテーブルは見つかりましたか?そこには10人の名前があると思いますが、事務局はそこにあなたの名前を書き加えることにしています。
いまなら、事務局は自由に席を作ることができますから、事務局は気をきかして、必ずお目当ての方の隣にあなたの席を用意します。
なお、表の真ん中あたりに外国人がいると思いますが、それはどなたですか?」と何気なく聞きます。
- その答えが大切な情報です。
選ばれたのが「米倉涼子」の場合には、同じテーブルの外国人はナナ・ムスクーリとなります。
- ここで術者の大切な作業が一つあります。
それは手の持っているB5のカードの一枚であるアンチョコの表を見て、いま言われた外国人の位置をみつけるのです。
この表では外国人が1の「イチャンホ」から10の「胡錦濤」まで、斜めに規則的にならんでいますので、その外国人を探すのは簡単です。
「米倉涼子」のケースには外国人としてナナ・ムスクーリのテーブルをみつけます。
そうしたら、その表の上から最初に知ったキーナンバーまで数えていきます。
すると上記の例ではナナムスクーリのある欄の上から数えると8番目に「米倉涼子」の名が見つかることになります。
そこで、この名前を最後のB5のカードに書き込みます。
- ここまで来ると、このキーナンバーに相当する外国人と副産物として最後に言及された外国人がわかっておりますので、
「先ほどの表では外国人はバラック・オバマでしたから英語で会話できますが、新しい座席表ではナナムスクーリのテーブルになりましたから、会話はナナムスクーリの母国語ですギリシャ語で行われます。お客様はギリシャ語がわかりますか?」
などと余談を続けることができます。
「ギリシャ語はわからない!」と言われたら、「はい、あなたはお書きになった有名人の隣にお座りいただきますから、
ギリシャ語の会話は必要ありません。」と説明します。
- 最後に観客の書いたカードと、術者が書いたカードをワン、ツー、スリーで表向きにすると、書いてある名前が一致しています。
そこで「お客様もそうでしたか。私のその方の隣に座りたいと思いました。
考えることはみな同じですね。
」と話をしめくくります。
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Photo: study by CodyR