氣賀康夫

ピエロの脱出
(Escaping Pierrot)


    <解説>
    これは古くから巧妙な仕掛けとして知られている種を用いた作品です。 ボール紙のような硬い紙があれば、誰でも手作製することが可能です。
    外側のケースに巧妙な仕掛けが仕組まれているのですが、見ている人にはそれがあまり怪しいという感じがしません。 中側の抜ける板は中央に穴があいているだけのものです。
    このたび新しいデザインとしてピエロを画いてみましたが、 最初の案ではお腹にあった穴の位置が、この新しいデザインでは、 やや下に下がり股の間になるように変更されることになりました。 お腹に穴があるのはデザインとして奇妙ですから、この方がいいと思います。<写真1>

    写真1

    <効果>
    ボール紙の筒状のものがあり、「男子更衣室、女人禁制」と表記してあります。 その中にピエロのボール紙の板があります。中央が真鍮のピンで固定されているので、そのままではピエロを取り外すことができません。 そこでピンをはずすと、ピエロはスムーズに引き出すことができることがわかります。 次に、ピエロの板を再び筒の中に入れて再びピンで固定します。
    そして「いま、更衣室には鍵がかかっていますから、鍵を開けないとピエロは外に出られません。」と説明します。ここでピエロを引き抜こうとするとピンが引っかかってしまいます。ところが術者がおまじないをかけてから、観客にピエロの頭を持たせて、引っぱってもらうと不思議なことにそれがスルスルと筒を抜けてしまいます。ピエロの板と更衣室の筒とを調べても怪しいところはありません。


    <用具>

  1. 外側のケースは二枚のボール紙を縁で張り合わせて筒状にしたものです。張り合わせはセロテープを用いてもいいでしょう。ケースの中央には小さな穴があいていますが、その上下には裏表ともにV字形の切り込みがあります。実は、その切り込みの位置が表と裏で微妙にずれているのです。これがこの奇術の重大な種の役割を果たしています。切り込みのV字が中央の穴から遠い方の面をA面、V字が中央の穴に近い方の面をB面と呼ぶことにしましょう。なお、この中央の穴は直径5mmであり、標準のパンチ穴のサイズです。<写真2>
  2. 写真2
  3. 中側のピエロのデザインの板もボール紙で作成できます。表裏にデザインを貼りつけるのがいいでしょう。なお、中央にやや大きめな穴があいていますが、この穴の直径は8mmです。
  4. 文房具として売られている真鍮の止めピン(頭が丸く、ピンが 兀 型に双方向に開くもの、文具の世界ではこれを「割り鋲」と称する。)を一個使用します。このピンの頭の直径は7mmです。
  5. <準備>
    ケースのB面を上にして、そのなかにピエロの板を通し、ピンを下から上に通して上でピンの足を開いて止めておきます。

    <方法>

  1. この道具を取り出して、観客に手渡して「今、男子更衣室にピエロが入っていますが、入り口に鍵がかかっているでしょう。」と説明します。観客がケースを調べて、その裏表を見て、さらにピエロを引き出そうとしても、中央の真鍮ピンが掛かっているのでそれが引き出せないことがわかるでしょう。
  2. 次に、観客の手でピンを外して、全部(外側の筒状のケース、中側のピエロの板、真鍮のピン)をバラバラにしてもらいます。ここまでに怪しいところは何もありません。
  3. そうしたら、更衣室を想定した外側のケースを受け取り、A面を上にして左手に持ちます。
  4. 次にピエロの板を右手に取ります。ここからの動作が大切です。ピエロの板を足の方からケースの上側から中に通します。このときに秘密の動作があります。それは、ピエロの足を、下側になっているB面のV字の切り込みにくぐらせて、一旦筒の外側に出し、 穴の反対側のもう一つの切り込みから筒の中に戻して通過させるのです。<写真3>
    この動作が、この奇術の大切な秘密であり、それは、すべてケースの下で観客に気づかれないように指の動作だけでスムーズに実行されなければなりません。観客は筒の上から見ているので、この秘密の動作が見えないのです。<写真4>

    写真3
    写真4
  5. ピエロの板が一旦通ると、それを上下に動かしてみても、上から見る限りはV字の穴とピンの穴から板がチラチラと見えるだけで怪しいようには見えません。そして、ピエロの穴の位置がケースの中央の穴の位置に一致するように調整しておきます。

  6. 次に、ケースの中央の穴に真鍮ピンを下から上に穴を通してピンの脚を広げて留めます。<写真5><写真6>
  7. 写真5
    写真6
  8. ここで、中のピエロの板を観客に引っ張ってもらいます。すると、ピンの頭の部分が穴にひっかかってしまい、それ以上は動かないことがわかるでしょう。<図1>

    <図1>
  9. 次に、術者がケースの裏側から指先でそっと裏側のピンの頭を上に押し込みつつ、ピエロの板を少し動かすと、ピンの頭が穴の部分をクリアするでしょう。<図2>
    そうしたら、観客にピエロの頭を持って上に引っ張ってもらいます。 するとピエロがスルスルと抜けてしまいます。

    <図2>
  10. ピエロが完全に抜けたら、そのままケースを観客に手渡して調べてもらいます。そのときには、もはやピエロの板にも、ケースにも、真鍮ピンにも、どこにも怪しいところはありません。実は、厳密に言うと、この手順の始まりのときとケースの裏表が逆になっているのですが、そのことに気づく人は稀でしょう。

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