氣賀康夫

百寿の秘密
(Upto Age 100)


    <解説>

    カードに描いてあるものの一つを心の中で選ばせ、さらに数枚のカードを示して、その中に選んだものが描かれているか否か質問した後に、その選ばれたものを当てる......という原理の奇術の演出は無数に考えらますが、そのほとんどの場合、原理は二進法(Binary System)の応用です。 そのなかで、数字を題材に用いて、心に思った数字を当てるというのがその最も基本的な形式ですが、数字を使うのは最もストレートな演出であり、演じ方によっては露骨な感じがすることは否めません。 そこで、動物とか果物とか、何か品物を用いて、それに番号を振って演出するというような工夫がよくなされます。このような種は、奇術大会のお土産などにもしばしば使われてきています。 ただし、デザインに番号が振ってあるというものが多く、それもかなり露骨なやりかたであると言わざるをえません。
     一方、数字を表舞台から完全に消し去って、それを影役者にするような工夫もなされています。たとえば、「1」はイチゴケーキ、「2」はフランスケーキ、「3」は蜜豆「4」は羊羹という風に語呂合わせで、数字をカモフラージュするという手法もしばしば用いられます。
    また、さらに工夫されたものとしては、カードの特定の位置に穴をあけておき、品物があるか否かを質問するかわりに、「ある、なし」によってカードの向きを変えて、カードを重ねてもらい、最後にその穴から覗くと、答え分かるという原理もあります。
    理論的には、二進法を使うと、当てられる品物の数は、カードが4枚なら、「2の4乗=16」までが限度(全部に描かれていないケースを除外すると15、以下同様)、5枚なら32まで、6枚なら64まで、7枚なら128までが限度という計算になります。ただし、その場合、品物がちょうどその数になるようにカードを設計するのはまずいやりかたです。だから、ここにご紹介するカードも、原理的には128までの数字を当てることが可能なのですが、丁度100までで演ずる企画になっています。
    その後、さらに、「ある」というカードでなく「ない」というカードを使う方法が演出として望ましいことに気づきました。これは従来あまり広くは知られていない原理です。そして、最後の改案ではキーナンバーの2の累乗数である16,32,64を計算に便利な15,30,50に変更することにしました。この改良案で術者の計算の負担が著しく軽減されることとなりました。 原理的にはカードを見せつつ所定の数があるかないかを聞けば、数を当てることができるのですが、そのような使い方では、演出が露骨すぎて、面白くも何ともありません。ところが、以下に解説するように演出を工夫すると、非常に効果的な演技が完成します。事実、TAMCで試演したところ、二進法を知っているベテラン会員も種がわからなかったと感想を漏らさる結果となりました。


    <効果>

     観客に1から100までの数を一つ心に浮かべてもらいます。 自分の年齢でも、家族の年齢でも、子や孫の年齢でも、あるいは自分がここまで生きたいという年齢でもいいことにします。 そうしたら、術者は数枚のカードを観客に手渡して後ろを向きます。 観客は術者の指示によって、思いうかべた数が書いてあるカードとないカードとに二分し、あるカードを一旦隠します。術者はないカードを後ろ手で受け取り、前を向きます。 そして、それを念のため一枚づつ観客に見せて確かに所定の数字がないことを確かめます。 それが終わると術者は手にしているカードを全部観客に返します。 観客はそれを「ある」のカードと一緒にして隠します。最後に、術者は大きなカードに数字を書きます。 そして、観客が心に浮かべた数を確認すると術者が書いた数字と一致しているのでびっくりします。


    <用具>

  1. 今回、提供するのは1から100までの数字を当てるためのカード7枚です。その基本デザインは<写真1>のとおりです。7枚には密かにキーナンバーが割り当てられていて、その使われるキーナンバーは1,2,4,8,15,30,50です。大きさはA5サイズくらいを標準とします。
    <写真1>(画像をクリックすると拡大します)
  2. なお、7枚のカードの裏模様は一見同じように見えますが、この演出のために筆者が特別にデザインしたものであり、カードの左上隅と右下隅にキーナンバーの数字が巧妙に隠されてデザインされています。<写真2>そして、「ない」のカードのキーナンバーを加えると、その答えが選ばれた数字になる仕組みになっています。
    <写真2>(画像をクリックすると拡大します)
  3. B5サイズのカード2枚
  4. フェルトペンのような筆記具

    <準備>
     カードを表向きに7枚重ねておくのですが、その順番を表からキーナンバーが50、30、15、8、2、4、1の順とします。この順は術者の計算の負担を軽くするための工夫です。B5サイズのカード2枚、筆記具も用意します。


    <方法>

  1. まず、観客の一人に「1から100までの好きな数字を一つ心に思い浮かべてください。」とお願いします。 100までということなので、年令当ての演出もよいと思います。 例えば本人の歳、これから何歳まで生きたいか、あるいは親の歳、子の歳、孫の歳もOKとすれば、 最低1から最高100までの数字が出てくる可能性があるでしょう。 B5サイズのカードの一枚を観客に手渡して、術者は後ろを向きます。 そうしたら、忘れないようにという趣旨で、B5サイズのカードに筆記具で選んだ数字を書いてもらい、周囲の観客にもそれを見せてもらいます。
  2. それが終わったら、カードの数字を書いた面を伏せてテーブルの上の置いてもらいます。
  3. 次に、カード7枚を取りあげてもらい、一枚づつ表をよく見て選んだ数字があったら右側、無かったら左側という具合にテーブルの上でカードを二分してもらいます。
  4. そうしたら、「ある」というカードの山の上に、先ほどのB5サイズのカードを乗せてそれらのカードが見えないように隠してもらうようにします。
  5. 一方、「ない」のカードは全部裏返しにしてもらいます。
  6. ここで術者は後ろを向いたままで「ない」のカードを後ろ手で受け取ります。
  7. そうしたら、術者は前を向きます。カードは後ろ手に持ったままですから、それは誰からも見えない位置になります。
  8. ここで、「念のためもう一度確認しましょう。」と言い、後ろ手に持っているカードのトップ1枚を持ち、それを前に持ってきて、観客に表を見せます。術者は表を見ないのですが、裏が見えるので、そのキーナンバーを覚えておきます。そして、「確かにお選びの数字がありませんか?」と確認をとります。そして、確認が終ったらそのカードを再び後ろに回して、左手のカードの一番下に置きます。このとき、見せたカードと見せてないカードとがまざらないように、カードを持つ指の位置を工夫するのがいいと思います。(見せてないカードは左手拇指と食指の間、見せ終わったカードは食指と中指の間など)
  9. 次に、次のトップカードを同じように右手で前に持ってきて、それを観客に見せて、所定の数字がないことを確認してもらいます。その確認の間に術者は覚えている数に、そのカードの裏のキーナンバーを足し算します。
  10. 持っているカードをすべて同じ要領で確認してもらい、術者は加算を続けて答えを覚えておくようにします。それが終ったら、今度は右手で全部のカードを揃えて前に持ってきて、観客に手渡し、「確かに選ばれた数字はなかったようです。」と言います。そして、「それでは、これらのカードも先ほどのカードと一緒にしておいてください。」とお願いします。この間、術者はカードの表を見るチャンスはありません。
  11. ここで、術者は残る1枚のB5サイズのカードと筆記具を持って再び、後ろを向きます。観客は数字のカードを全部一まとめにする作業をしますが、その間に、術者は持っているB5サイズのカードに覚えた数字(加算の結果)を書き込んでそれを裏向きに持ちます。
  12. ここで、前に向き直ります。いよいよ、クライマックスです。選ばれた数字を質問し、その答えを聞いてから、観客の持っているカードと術者が持っているカードを一緒に表向きにすると、その数字が一致していることがわかります。

    <注>

  1. この奇術を演ずるときに、カードを見せて数字があるかないかを質問して、最後に「ではお選びの数字は○○でしょう。」とただ当てるというような演じ方は面白くありません。それが、ここに説明した手順を踏むと、はるかに効果的な奇術になります。
  2. 暗算は結構やっかいですが、加える数字は最大で5個止りです。加えるべき数字が6個や7個になることはありません。
  3. 使われるキーナンバーのうち二桁の数字は50、30、15の三種です。そして、それが三つとも出てくるのは、95以上の場合だけです。それ以外の場合には二桁の数字は二つ止りです。そして、その二桁の数字の加算は最初に行うように手順を工夫してありますから計算は複雑にはならないと思います。
  4. 二桁が終わると、一桁の加算だけが残りますから、あとは、ゆっくりと落ち着いて足し算をすれば、間違えることはないでしょう。

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