マーローは、この種のトリックを多く発表していますが、次のは、その中でも私が気に入っているうちの一つです。
デックから4Aを取り出して、2枚を右膝の上に、他2枚を左膝の上にそれぞれフェイスダウンで置いておきます。
または、2枚をコートの左サイドポケットに、他2枚をコートの右サイドポケットに、それぞれフェイスを内側に向けて入れておきます。
客がデックをシャッフルしている間に、パフォーマーはAを両手に2枚ずつクラシックパームして両手を膝の上に置いておきます<写真1>。
客に、デックをテーブルへ置いて、約半分をカットするように言います。デックのエンドは、パフォーマー側に向いています。
客がカットしたら、パフォーマーは、両手をそれぞれパケットのトップへ持っていき、“スパイダー・リターン(Spider Return)”で両手の2枚のAをそれぞれのパケットのトップに加えてしまいます<写真2>。
このスパイダーリターンとは、パームしていたカードを、パケットのトップへ付け加えたらすぐに、両手の指を大きく広げる事です<写真3>。
つまり、両手は、パケットを上から握った時に、パームカードをこっそりとパケットのトップへ置いたら、すぐに指を広げて、それぞれのパケットをパフォーマーの方へ引きずってきます<写真4>。
このスパイダーリターンというテクニックは、相手に与える心理的要素が大きいです。というのは、両手の指を広げないでパケットを握って引きずる時と、指を広げてパケットのトップを見せながら引きずる時とでは、見ている側の心理が全然違います。
つまり、パフォーマーがパケットを上から握った時に、そのトップが見えている場合、即ち、指を広げている場合は、パフォーマーが何か秘密の動作をやったのではないかという懐疑心は相手の心に生じません。
しかし、パケットのトップが見えていない場合、即ち、指を広げていない場合は、パフォーマーが、もしかしてパームしていたカードを、パケットのトップへ置いたのではないかという懐疑心を持つ人も中にはいるのです。
そして、両パケットの両エンドを握って、それぞれの外側サイドをテーブルへ軽く打ち当てて、また、テーブルへフェイスダウンに置きます<写真5>。
スパイダーリターンからここまでは、一連の流れるような動作で行います。
次に、右手で右側のパケットを右横へずらして、両パケット間を約15cm位開けます。
そして、パフォーマーは、左側のパケットを指し示して、次に、その右横のスペースを指し示しながら、そこへ左側パケットの半分をカットするように客に言います<写真6>。
今度は、右側のパケットを指し示して、その半分をその右横にカットするように言います<写真7>。
客が4つのパケットに分けると、1と3のパケットのトップにAが2枚ずつ来ています。
右手は、パケット1のトップカードを第25回のスペクテイター・エース・カッティングの方法1のように、そのアウターエンドを握って前方へ振り出しながらフェイスアップにターンしてパケット1の前方へ置きます。ここからが、このトリックのポイントです<写真8>。
フェイスアップカードをパケットの前に置くと、そのフェイスアップカードのインナーエンド付近に右手の中指、薬指の指先がタッチして、右手の親指は、パケットの左サイドのアウターコーナー近くにタッチします<写真9>。
そして、右手親指と右手の平でトップカードのアウターコーナー近くを挟みます<写真10>。これは、マーローのリア・アングルパームポジション、または、天海パームポジションになります。
もっと詳しく言うと、右手親指のボール部のすぐ近くのシワ(第一関節)をトップカードの左サイドのアウターコーナーの縁に付けてはさみます。しかし、この位置は、手のサイズによって変ります。
<写真11>は、そのパームを下から見たところです。
パケットのトップカードをパームする時に注意する事は、その両コーナーを親指と小指のベース付近で挟む時に、親指と小指を少しでも動かしてはいけません。ほんのちょっと動かしても、その動きは、客に分かってしまいます。
パケットのトップに右手の平がタッチしたら、その時点でトップカードが右手のパームポジションに入っていなければなりません。
それは何回も練習すると分かりますが、コツは、手の平がパケットのその位置にタッチした時に、右手の平でほんの少しパケットを下へ“押し付ける”というか、“押さえる”、言い換えると、右手の平に少しだけ力を“加える”と、自然とパームできます。
次に、そのトップカード(A)をマーロー・リア・アングルパーム、または、天海パームでパケット2のトップへ持っていき、そのパケット2のトップカードを取るふりをする時に、パームしていたカード(A)をパケット2のトップへ落とします。
<写真12>は、右手がパケット2のトップカードを取ろうとして、パームカードを、パケット2のトップへ落そうとしている瞬間です。
そして、右手で、その落したAを、客にはっきり分かるように、パケット1の時と同じ方法で持ち上げて<写真13>、パケット2の前方へ同じようにフェイスアップに置きます。
これと同じ動作を残っているパケット3、パケット4で行い、それぞれのパケットの前方にカードをフェイスアップに置きます<写真14>。全てAです。
マーローズマガジン Vol.5, p.245~246.