これから紹介するマーローのトリックは、今から約44年前の私が19才の頃に、マーローが雑誌TOPSに発表したもので、使っているテクニックは、私が今まで紹介した同じトリックの手法とは違い、非常に巧妙で、さらに手の込んだものになっています。
デックから4Aを取り出して、膝の上に置くか、または、コートの右サイドポケットに入れておきます。
膝の場合は、フェイスダウンにして、ポケットの場合は、カードのフェイスを内側に向けて縦にして入れておきます。
デックを客に渡してシャッフルさせます。
その間にパフォーマーは、4Aを右手のリア・フラットパーム・ポジション(Rear Flat Palm Position)に持ちます<写真1・2>。
それには、4Aが膝の上に置いてある場合は問題ありませんが、ポケットの中では、少し方法が変ります。
原文の解説は複雑で分かりにくいので、ここでは、私の簡単な方法を使用しています。
右手をポケットに入れたら、親指をカードの左サイドに付けて、カードのアウターエンド(ポケットの中では、ボトムエンドになります)を人差指と中指と薬指の付け根の関節に当て、そして、小指をカードの右サイドに付けて握ります。
すると、この時点で、すでに、右手親指の指先は、ほんの少しだけ、カードの左上コーナーを突き出て、他の4本指は、アウターエンド(ボトムエンド)側からフェイスに付いています。
しかも、小指の付け根には、カードの右上コーナーが、しっかりと強く入っています。この小指と薬指の叉にカードの右上コーナーが硬く、しっかりと入っていないと、テーブル上での動作が上手くいきません。
この状態から、4本指を伸ばしたのがリア・フラットパームです。
リア・フラットパームにした時、手首に近い手の平から、カードの左右のインナーコーナーが少し出てしまう場合があります。
これは手のサイズによるもので、手が小さい人は角度に注意して下さい。
これから、右手をポケットから出す訳ですが、その時に、カードがポケットの中の布に引っ掛かってしまう場合があります。
その時は、客に気づかれないように、左手でコートの右サイドの前を体の方へ押さえると、右手はスムーズにポケットから出せます。
他の方法としては、右手に4Aをクラシックパームしたまま、ポケットから出して、それと同時に、客に気づかれないように、このパームポジションにした方が、引っ掛かりは全くありません。
客がデックをシャッフルしている間に4Aを右手にパームしたら、次に、デックを横一列に4パケットにカットするように客に言います。
その間に、4Aをパームした右手をポケットから出して、その4本指を内側に曲げた状態で、両手をテーブルエッジに置いて、リラックスポジションにしておきます<写真3>。
ここで注意しておく事は、テーブルエッジに付けた両手は、左右、同じ形にしておくという事です。
客が4パケットにカットし終ったら、パフォーマーは、右手を右端のテーブルパケットの方へ持っていきます。
その途中で、右手の中指と薬指の指先のボール部を4Aのフェイスにつけて、そのフェイスカードを前方へ引き出します<写真4>。
すると、4Aのフェイスカードの左サイドが右手の親指から離れて、少し左側へずれて、一種のサイドブレイクの形になります。
<写真5>は、フェイスカードがずれたのを下から見たところです。
しかも、アウトジョグしたフェイス・カードのアウターエンドの左コーナー近くの縁が、右手の人差指の第一関節と第二関節の中間(これは手のサイズによって違います)に付いています。
また、右手親指の指先が、そのフェイスカードのアウター・レフト・コーナーのトップ(縁)にタッチしています。
右手は、その形で、右側のテーブルパケットの上にやり、あたかも、そのテーブルパケットのトップカードを取るかのようにします。
実際は、右手親指をパームしていた4Aのフェイスカードの左上コーナーのトップに付けて、右手人差指をそのフェイスに付けて握ります<写真6>。
右手を最初のテーブルパケットへ持っていく途中で、このテクニックを行うのが少し難しい方には、両手をリラックスポジションしている時に、右手親指のサイドブレイクを作っておくのも一つの方法です。
そして、そのコーナーを持ち上げると同時に、右手を上方に上げながら、右手親指でそのカードのバックを前方へ押して、カードを振り上げると、カードはフェイスアップになり、そのままパケットの前に置きます<写真7・8・9>。
この同じ動作を残りのパケットで繰り返しますが、最初の3パケットのトップカードをフェイスアップにターンする時は、リズミカルに、テキパキと行います<写真10>。
しかし、これは、簡単ではないのでよく練習して下さい。
最後、Aの時は、パームしていたAを、こっそりと実際にテーブルパケットのトップに置いて、それから、客にはっきりと分かるように、そのAを持ち上げながらフェイスアップにターンしてパケットの前に置きます<写真11>。
リア・フラットパームからカードを出すこのテクニックは、“ベーシック・プロダクション・ムーブ(Basic Production Move)”と呼ばれています。
全てのAを出し終わったら、すぐに両手の平を上に向けて、4Aを示し、次に、両手の平を下にターンしながら指を握って、テーブルエッジにリラックスポジションで置きます。
そして、客を見てニコッとします。
マーローズマガジン Vol.5, p.244~255.
これで終わりですが、皆さん、如何でしたか? 手が込んでいたでしょう。このトリックを行う時は、客がパフォーマーの正面だと、パームが見える恐れがあるので、客が少し右斜め前に位置していた場合に、やり易い方法です。
私がこのトリックを行う時に使っているパームは、原文のリア・フラット・パームではなく、リア・アングルパーム(Rear Angle Palm)を使っています。
というのは、日本人は手のサイズが外国人に比べて小さいので、ブリッジサイズのカードでしたら問題はないのですが、ポーカーサイズでのこのリア・フラットパームは、少し、やりづらいと思います。
マーローのリア・アングルパームでしたら、ポーカーサイズのカードでもスムーズに出来ます。 しかし、カードマジックは、必ずポーカーサイズのカードで練習しておいた方がベストです。
マーローは、他にもアングルパームやそれを使ったトリックを多く発表していますが、私は彼のパームを知った時は、本当に感動しました。ですから、私がカードマジックを行う時は、好んでこのアングルパームを使っています。
アングルパームは、形が自然で、指も動かしやすいし、また、デックのトップやボトムにもリプレイスし易いのが特徴です。
私が一番気に入っている事は、このアングルパームから他のいろいろなパームにチェンジ出来る事です。それは、つまり、何といっても、他のカードトリックに応用が利くという事です。