私がマーローのマジックを勉強し始めた頃、テクニック以外で最初に感動したトリックが、この“スペクテイター・カット・アンド・エース”でした。
これは、皆さんもご存知のとおり、相手にシャッフルしてもらったデックを4つのパケットに分けてもらい、それぞれのトップカードがエースになっているというトリックです。
私が中学生の時に日本語の奇術書で覚えた同じトリックは、デックを4つに分けて、それぞれのパケットのトップから3枚のカードをボトムに廻して、次に、トップから1枚のカードを他のパケットのトップへ置くという簡単なものでした。
その頃は、そのトリックでも、なるほど、と感心したものです。しかし、マーローのを知った時は、その大胆で、人の意表をつくテクニックに、思わず、“すごい!”と声が出てしまいました。
この種のトリックは、Bob Veeserという人から始まり、後に、Daniel Brousardや、Neal Eliasなどのマジシャンが同様のトリックを行っています。
マーローは、これらのトリックに、彼の大胆で思い切ったテクニックを加えて、全く新しいと感じるトリックを完成させています。
それでは、彼のいくつかのトリックを私なりに解説してみますので、皆さんやってみて下さい。きっと気に入ると思います。
デックから4枚のAを取り出します<写真1>。 そして、4枚を1組として左手にフェイスダウンで持ち、右手で4Aのインナーエンドだけにブリッジをかけます<写真2>。
つまり、ブリッジはインナーエンドだけで、アウターエンドはまっすぐになっています。
そのブリッジのかかった方をパフォーマー側に向けて、デックのトップへ置きます<写真3>。
4Aをトップにセットしたデックは客にシャッフルさせられないので、私は次のようにシャッフルしています。デックを左手にオーバーハンドシャッフルの形に持ち、右手で、デック全体を握り、始めに、左手の親指で、トップから10枚位のカードを1ブロックにして、左手に取り、次に、右手の残り全てを左手のカードの上にシャッフルします。
今度は、そのデックを右手で同じオーバーハンドの形に持ち、約半分まで左手にシャッフルします。約半分シャッフルしたら、右手の残りをそのまま左手のパケットの上にスロウします。
デックを揃えると、その左サイドのインナーエンド近くにブリッジの分け目が見えます(注:インナーエンドのブレイクではありません)。右手の親指と中指、薬指で、そのわけ目から上のパケットをサイドで分けて取り、ボトムに廻します。
以上のフォールスシャッフルで、デックのトップは4Aです。
そのデックを両手で揃えて、テーブルに置き、客に4組にカットさせますが、パフォーマー側から見て、左から右へカットさせます<写真4>。
つまり、4番目のパケット(トップは4A)は、パフォーマー側から見て一番、右側になります。
客がカットしたパケットは、ほとんど不揃いで、特に4番目のパケットがゆがんでいるとまずいので、全てのパケットを両手で何気なく揃えます<写真5>。
次に、右手で4番目(一番右端)のパケットのトップカードを取り上げるかのように見せて、実は、インナーエンドのブレイクから上の4Aを1枚のように取ります<写真6>。
そして、それを左手の深目のディーリングポジションに置きますが<写真7>、この右手でカードの両エンドを上から握って持ち上げる時は、常に右手の人差指をトップに曲げて付けておきます。
また、これは、この後の、トップカードを取り上げて、左手に持っていく時も全て同じです<写真8>。
右手は続けて、3番目のパケットのトップカードを取り上げて、左手のカード(4A)の上に置きますが、その時に、左手小指の先で、そのカードの下にブレイクを作ります<写真9>。
同様に、カードを取り上げて左手に置く動作を2番目のパケットで行います。
そして次に、一番左側の1番目のパケットのトップカードを取り上げる時に、両手は自動的に左手の方へ動きます。右手は、この1番目のパケットのトップカードを取り上げて<写真10>、左手のカードの上に置きますが、同時に、右手は、ブレイク以上の3枚のカードを、こっそりと取り上げます<写真11>。
そのまま1番目のパケットの方へ移動させてそのトップへパームしていたカードを戻してしまいます<写真12・13>。この動作は、4枚のトップカードを左手に置いた後、すぐにテーブルの1番目のパケットを取り上げるというものになります。
動作を止めないで、右手は、その1番目のパケットを取り上げて<写真14>、2番目のパケットの上に重ねます<写真15>。
そして、右手は、その重なったパケットを取り上げて、3番目のパケットに重ねます。続けて、そのパケットを4番目のパケットに重ねます<写真16>。
つまり、全体のアクションは、ただ単に4つのパケットを集めてデックの形にして、それを横に置いた、という事にすぎません。
あとは、左手に持っている4枚のカードを右手でテーブルにフェイスアップで配り、4枚のAを示します<写真17>。
Marlo's Magazine Vol.3 P.324~325
上記のトリックで最後に4枚のAだけを左手に残したのは、それをテーブルへ、フェイスアップで示した時に、“4枚のA”という事を強調したかったのだと思いますが、私は、どちらかと言うと、4つのパケットのトップでそれぞれAを示した方が、客は、確かに自分が4つに分けたパケットのトップがAだったと思うのではないかと思います。
また、このトリックで残念なことは、まず始めに、デックを客にシャッフルさせられない事です。
この種のトリックは、客にシャッフルさせてこそ、その良さが現れるのですが、恐らく、マーローの事ですから、彼も、初めて、この元となるトリックを知った時は、客にシャッフルさせられないものかと考えたと思います。皆さんは、どう思われますか。