古川令

先入観の利用ついて(1)

 前回はコロンブスの卵から、先入観の大事さに触れましたので、ここではミリオンカードの手順の中で、実際にどのように先入観を利用しているかに触れたいと思います。

 私のオリジナル技法の中で最も気に入っているテクニックは、このラビリンスでもご紹介したカードスピンからのファンの出現です。パケットを1枚のカードのように回転させて投げ上げ、キャッチしてファンにする現象で、「複数のカードを投げたら、絶対に空中でバラバラになる」という先入観を利用したものです。マニアの方には、ステージで演じるよりも眼の前で演じた方が驚かれるという点でも面白い技法です。
 きっかけは 1円玉の時と同じで「やってみたら出来た!」という事です。やってみるきっかけの考え方がお話したい点で、「トランプを1枚のように見せる方法」を考えるのではなく、「普段さりげなく1枚のように見せる現象と全く同じ現象をパケットで行う」事ができれば、最も自然に1枚に見えるはずという考え方です。

 写真のように、カードの対角線のコーナーを持って、対角線を軸にカードを回転させて1枚のように見せる方法がありますが、カードを普通はそのような扱いをしないので、カードは1枚にしか見えなくても、「1枚のように見せようとしている」という意図まで観客に伝わってしまいます。

 そこで、実際に1枚のカードを手に持って、最も自然な「一枚のカード」の示し方は何かと自分の癖を考えたら、クロースアップでもさりげなくやっているカードスピンと思いました。そこで試しにパケットを投げてみると意外にばらけない事が判ったというのが開発のきっかけで、先入観を捨てて試してみる事の大事さを教えてくれました。

 この技法を開発したのは30年以上も前ですが、不思議にも長年ほとんどマネはされませんでした。しかし、さすがに最近になって追従するマジシャンも散見されるようになりましたので、新しい現象として、片手で同時に2枚のカードを投げ、左右の手でそれぞれキャッチして両手ファンの出現という技を開発しました。これも投げる前にパケットを2つに分けてから投げたら、なんとできちゃった!というものです。やはり、まずは試してみるものです(笑)。

 今回紹介するのは、カードスピンの前にカードロールを行う方法です。私が1枚のカードを持って無意識に行う動作には、カードスピン以外にカードロールとカードを反対の手の指で軽く弾くという動作がありました。指で弾くのは簡単ですが、問題はカードロールです。

 実際に写真のようにロールすると、最初は結構ズレましたが慣れてくると、前半の半回転で生じたずれを後半でかなり修正できる事が判りました。しかし、かなり練習しましたが、ファンニングパウダーの場合、完全にズレなくする事はほぼ不可能ではないかと思いました。しかし、試しにカードが完全に揃わない状態でどのくらいばらけるかを試してみたら、意外にも多少ずれていても大丈夫という事が判りました。
 これも先入観と事実が異なる結果で、すぐにステージで使える技法となりました。ここでステージでと書いたのは、さすがにサロンの距離ではカードのズレが見えてしまう(厚みが感じられる)可能性があるからです。なお観客から見れば、ズレたカードを投げてもバラけないというのは、もっと不思議感じるかも知れません(笑)。

 
 
 

 「なぜ、多少ずれてもパケットが空中分解しないのか?」とよく聞かれますが、残念ながら明確な回答ができません。「やったら、出来た」というのが事実です。大事な事は、やれそうかどうかではなく、「私には技法を開発する必要性、必然性があった」という事です。

 蛇足ですが、このスピンからのファンプロダクションのテクニックで、難易度の割にウケないのが、カードを連続でスピンさせてからのファンの出現です。この場合、キャッチした時にカードが揃っている事が重要で、ズレていたら連続技はできません。キャッチしてから投げるまでの間に素早くカードを揃える必要があり、結構難易度が高いテクニックなのですが、残念ながら観客の反応は難易度ほどではありません。

 その理由を良く考えてみれば、パケットの連続スピンの難しさが判るのは演者だけで、観客からは一枚のカードを1度スピンさせれば十分という事です。従って、わざわざ2度、3度とスピンさせる事に意味はなく、逆にそれが奇異(不自然)に感じるからと推測します。アピールもまた「過ぎたるは及ばざるが如し」で、やはりマジシャンの目線ではなく、観客の目線で考える事が重要という事でしょう。

次回は手順における先入観の利用について紹介します。

コロンブスの卵      先入観の利用ついて(2)