古川令

パスについて(その1)

なぜパスが必要か?

 ミリオンカードの「不思議さ」において、私は両手が観客から見える状態での演技の連続性が重要と考えます。例えば、一旦体の影に隠れた手からカードが出現しても、カードを補充したと予想され、少なくとも私はそれほど不思議さを感じません。
 パスのメリットは、観客からみて空になった手から、カードをスティールせずにカードを出現できる事です。もちろんパスの場合でも、パスの気配が観客にバレたら終わりである事はスティールと同じです。ここでは、私が実際に手順に入れているパスについて、そのミスディレクションも含めた考え方を紹介します。

ピボット・ターン

写真1
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写真2
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 ファンカードなどでも良く用いられるポピュラーなパスです。名前の通り、パケットを回転させてパームのポジションに移行します。手のひら側の半分のパケットを親指で押し出し、人差し指を支点に回転させると同時に、反対側のパケットをフロントパームの位置に移動します。
このパスの私にとっての欠点は、 フロントパームでカードのフェイスが手の平側になるので、このパームからのシングルカードやファンプロダクションには不向きな事です。しかし、ファンカード的なハンドリングには有効な技法です。
カードを回転させるタイミングが重要で、私が大学時代にファンカードで習った方法は、左手が空である改めをミスディレクションにターンを行う方法や、体の右側でカードの手のひら側を見せてから、手を返す動作の中でターンをするなどでした。
しかし、どちらも「ピボット・ターンをするための動作」のような、私の中ではちょっとした違和感がありました。
 私のピボット・ターンの使い方は、右手(右利きの方は左手)で押し出しファンを保持する状態から、ファンを閉じて揃えて左手に持つという一連の動作の中でピボット・ターンを行うものです。左手のカードを揃える際に右手のカードをピボット・ターンの位置に添えて、そのまま半分のカードを回転させてパームの位置に保持しますが、回転するカードが右親指の付け根から見えないようにさえすれば、自然な動きです。

手順における使い方

写真3
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写真4
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写真5
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この方法だけで、右手のフロントパームからファンを繰り返し出現させるという現象も可能です。 写真は、右手のファンを揃えて左手に持つという一連の動きの中で、ピボット・ターンを行ったもので、この後、右手からファンが出現でき、右手のファンを左手のカードの上に揃える動作の中で、ピボット・ターンが行えます。
同じ現象の一般的な方法は、カードを持った左手で右手のファンを手前から前方に閉じる際に左手のカードを右手にパスするという方法ですが、動きの自然さが違います。

手順において、パスからファンを
出現させる意味

私は、ミリオンカードの手順の構成上、このようなパスを使ったファンの出現を、ファンプロダクションの前に、何度か行う事が重要と考えています。それは、観客にファンのカードの「質感」の印象を与える事にあります。
私の場合、ファンプロダクションでは5枚のカードしか開きませんが、予め、半分のデックを使った質感のあるファンの出現を何度が印象付ける事で、その後で行うファンプロダクションのファンのカードの枚数も実際よりも多く感じさせる事ができるからです。

 たまに、いきなり両手からの一枚出しなどからミリオンカードの手順に入る演技を見ますが、最初に数が出る現象を見せられると、その後の手順での出現において、数によるインパクトは難しくなります。「最初は両手にパームができるから」などといったマジシャンの都合ではなく、少しでも少ないカードでより不思議に(数多く出現したように)見せるための手順構成での工夫が重要と思います。サトルティとまでは言えなくても、小さな工夫の積み重ねが良い手順の条件のひとつと思います。次回は私が気に入っている、ちょっと大胆なパスを紹介します。

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