古川令

パケット・バニッシュ

 前回は5枚カードの改案について書きましたが、ここでは、左手に持ったパケットを右手のファンで扇ぐと消えてしまうという、ファンカードでは非常にポピュラーな現象における私の改案を紹介します。
 簡単なようでも不思議に見せるには意外に難しいマジックで、扇いで消したというよりも、左手のパケットを右手のファンの後ろに隠した(事実と同じ)ように見えるケースが多いと思います。その疑いを晴らす最も良い方法は右手のファンの裏を見せる事と考えたのが今回ご紹介する方法です。

 ファンカードと言えば、バイスクルのテトラ・デックという4色のファンカード用のカード(ポーカーサイズ)が発売になりました。ここでは判りやすいようにテトラ・デックを使って解説します。

写真1
写真2

USプレイングカード社製のバイスクルのテトラ・デック。写真では見難いですが、
ジャンボファンが簡単にできるように、購入後に赤黒のカードをそれぞれ逆向きにテーパー加工をしました。


<方法>

技法の種明かしが目的ではないので、いきなり佳境の部分から始めて恐縮ですが、私の場合には、左手のカード(写真左)は、右手のファンでカバーされた瞬間に同じ向きのまま右手のファンの後ろに落とし、左手はそのまま手の甲を観客に向けます(写真右)

写真3
ファンで扇ぐ前
写真4
扇いだ後

 その時の右手の状態は、人差し指が2つのパケットの間で、人差し指と親指で右手のファンを支持し、右手の3本の指と人差し指の外側で左手にあったパケットを保持しています。写真では、落としたカードが区別できるように、わざと左手で保持していたパケットの向きを反対にしています。

写真5

 右手は、カードを保持した状態でさらに1~2回ファンで空の左手を扇ぎますが、その動作の中で右人差し指を抜いて全体をひとつのファンにしてしまいます。これで完全に左手にあったパケットは消失した事になります。

左手のパケット(赤が見えている部分のカード)を、右手のファン裏で受け取った状態。ちょっと見難いですが、人差し指はファンとパケットの間。


写真6
写真7
人差し指を抜いて、完全にひとつのファンにした状態。演者側(左)と観客側(右)から見た状態です。

<この技法の意味>

 右手のファンの裏をちらっと見せる事に、私のミリオンカードへのこだわりがあります。裏を見せない場合には、いかに自然に消したとしても、観客は「タネは判らないけど、何か右手が怪しい・・・」という、言わば“有限の不思議”状態と思います。しかし、そこでファンの裏を見せる事によって、観客にはカードの行方の想像がつかなくなり、私が目指す“無限の不思議”状態が期待できます。
 この「さりげなく、ちらっと裏を見せる・・・」といった類の、ちょっとした工夫の積み重ねが、「無限の不思議」を醸し出すためには重要です。理想のミリオンカードの完成には、まだまだ先は長いです。

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