土屋理義

マジックの切手
第33回

マジッククラブのラベル切手


 ナチス・ドイツの占領下にあったオーストリアで、ウィーン・マジッククラブの会員であったポール・ディンースト(Paul Dienst)が制作した、同クラブの2種のラベル切手(裏のり付き)です。同クラブの宣伝や、郵便の封緘紙、コレクターズ・アイテムとして利用されました。
 タイプ1(緑単片と田型3シート)は、四つ玉を保持した手が、カード(4枚のAと絵札)と2本のウォンドで囲まれています。上部に”MAGISCHE-KUNST IN DER OSTMARK WIEN“(Magic Art in the OSTMARK WIEN・・・
”OSTMARK”とは、1938年以降、ナチス・ドイツに併合されたオーストリアの蔑称で、“ドイツ東部州”と言われていました)。下部の”MIT HERZ UND HAND IM ZAUBERLAND”とは”With Heart and Hand in the Magic Land”、下部両サイドの“1938, 1939”は、マジック大会が開催された年号、”PAUL DIENST”は作成者の名前です。これには、緑、赤紫、青、黒の4色があり、それぞれ田型シートで作られています。

単片ラベル切手

田型ラベル切手シート・赤紫


田型ラベル切手シート・青

田型ラベル切手シート・黒

 もう一つのタイプ2(単片5種とフルシート)は、帽子をかぶったショーガールのデザインです。上部に“WIENER ZAUBER MELODIEN”(Viennese Magic Melodies)、中段に作成者の名前の”PAUL DIENST”、下部に、前述のラベルと同じ”MIT HERZ UND HAND IM ZAUBERLAND”(With Heart and Hand in the Magic Land)が書かれています。右下隅に薄く”OZ WIEN”(Ortszirkel Wien = Local Circle Vienna)、左下隅に”MZ (Magischer Zirkel = Magic Circle)とあります。描かれた女性が、当時有名なショーガール(歌手?)なのか、マジックのアシスタントなのか、誰であるかは不明です。このタイプには茶色、赤、紫、緑、青の5色があり、それが横4枚、縦5色のフルシートで印刷されています。

単片ラベル切手:茶色

単片ラベル切手:赤

単片ラベル切手:紫

単片ラベル切手:緑

単片ラベル切手:青



ショーガール・フルシート


 制作者のポール・ディンースト(Paul Dienst)会員は、ウィーン・マジッククラブの会報に創作手品を発表(下)するなど、熱心で有力な実業家で、戦後に同クラブの副会長も務めました。なお、このラベル切手が発行された当時(1938、1939年)の会長は、ホフツィンザーの有名な研究者であったオットカー・フィッシャーでした。


Paul Dienstの創作手品



Paul Dienstの創作手品

(上)小さなケースから飛び出す魔法の杖(ゴム紐でつながった折りたたんだ5本の筒を、一本の魔法の杖として取り出す)
(下)コップの中の白布が覆った黒布を貫通(黒布の中央に小さなゴム輪で丸めた白布を隠しておく)

 ステージ写真は、1948年のマジック発表会で、当時のクラブの会長(Anton Stursa・中央)のアシスタントを務めるディンースト(左)です。


Paul Dienstのステージ


 (本稿はMagic Christian氏のご協力により、ラベル切手と情報を入手して執筆しました)

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