以前、このマジック ラビリンスに「阿部徳蔵と名著“とらんぷ”」と言うテーマで阿部氏の事を書いた事があった。その頃から実は気になる事が1つあった。
阿部徳蔵氏
|
||
著書:とらんぷ”
|
私の手許に「阿部先生原稿」と赤鉛筆で付記してある原稿用紙28枚がある。紙のコヨリで綴じてある大変な時代掛かったもので、いつ、何のために書かれた原稿か分からなかった。その内容は・・・・
第1枚目は | |
① 総論 | |
② 服装 | |
③ 演技の心得 | |
④ 奇術特有の道具 | 29種 |
⑤ 奇術特有の技法 | 2種 |
⑥ 大魔術 | 34種 |
⑦ 中小奇術 | |
(1)カード奇術 | |
(ⅰ)カード奇術の技法 | 67種 |
(ⅱ)銀貨 | 29種 |
(ⅲ)中小奇術 | 103種 |
(ⅳ)ハンカチ | 15種 |
(ⅴ)紐、紙、マッチ、数等 | 21種 |
⑧ 数の奇術 | 11種 |
⑨ 心霊現象の奇術 | 20種 |
⑩ 中華の奇術 パズル | 14種 |
⑪ 坂本氏の奇術 | 14種 |
とタイトルだけが、記載されている。 |
2枚目以降28枚目までは、上記④~⑪までの明細と言う事で、300近いマジックのタイトルが記載されている。
例えば、上記⑦の(1)「カード奇術」の処を見ると、
カード特有の技法
(1)移動法
① 両手パス
② 片手パス
③ おりあげるパス
④ 引き抜くパス
(2)強制法
(3)ウソの切り方
① 一部を動かさぬ様に切る
② 循環する切り方
(4)すり替える法
① 上部のすり替え
② 下部のすり替え
③ 置いた札のすり替え
④ 札を投げる事
⑤ 手から手へ札を飛ばす事
⑥ 札を腕の上に並べる事
(5)仕掛けのある札
① 特有な形の札
② 長短のある札
③ 鍵の札を作る事
④ 裏を見てオモテが分かる札
⑤ 点字の札
⑥ 強制用の札
⑦ オモテの図柄の変わる札
(6)カードを材料として行う奇術
① 札を扇の様に拡げ白色となす事
② 札を扇子となす事
③ ミリオンカード
④ 札の上に手を当て札を変わせしめる事
⑤ 半分づつ裏表にして札を合せ、全部一方にする事
⑥ 札を手の表裏に隠現せしめる事
⑦ 3枚の札を交互に落とし、そのうちの1つを・・・
(7)その他 40種
・カード透視法 ・一緒になる3枚の札 ・王様の芝居見物
・カードの読心術 ・相手の見た札を当てる ・飛んでいく札
・相手が心に思った札を相手が思った数から出す
・4枚のエース ・3枚の絵札を1か所に集める
・カード透視 ・カードに洋盃を乗せる
・抜いた札を当てる ・分別法 ・カードが手の甲に立つ
・木葉カード ・カード透視法 ・何枚の札を移したか見ずに当てる
・相手が心に思った札を当てる ・7つの札
・一か所に集める札 ・計算して相手が抜いた札を知る
・カード テレパシイ(こめかみ) ・せり上がるカード
・袖口から懐に通う札 ・甲から乙へ数枚の札を移す
・風呂敷から出る札 ・抜いた札を知る
・何枚目の札を知る ・破いた札がまた繋がる
・カードを指先でつり上げる ・カードが手に飛び上がる
・相手の指したカードを当てる
・カードを天井につける ・相手が見た札一枚を抜き取る
・風船の中に現れる札 ・コップの中に消える札 ・ライジング カード
・剣にてカードを貫く ・妖怪星の札 ・カード縮小術
阿部さんは昭和19年に逝去されているので、これは昭和10年代半ば頃に記載したものと推測している。しかし これが何の原稿であったか、当初は分からなかった。
しかしながら昨年、東京アマチュアマジシャンズクラブ(TAMC)が創立80周年を迎え、私は記念事業実行委員長として、これまでのTAMCの歴史的事実を全精力を傾注して調査してきた。その結果、このメモの存在意義を推測できるに到った。
TAMCは、創立直後の昭和10年、「TAMC会報」を発行し、広く世の中にも読まれて来たが、会報とは別に「TAMC内報」と言うものの存在があった。
「内報」の創刊は、昭和14年で、「会報」とは異なり、会員限定の「外部には極秘」の刊行物であった。 内報のタイトルは「あぶらかたぶら」と表紙に記載されており、 その序文に亡父坂本種芳(第5代TAMC会長)は下記の通り書いている。
・・・我々が今日まで研究習得した内外の奇術を材料別に裁録して忘備の資に供するもので・・・ただ思い出ずるままに書き並べたものである。 (中略)・・・いちいち内容を記載する代わりに後日思い出す緒ともなれば・・・と考えて付記したものである。
表題“ABRAKADABRA”は世界的な呪文であって他に意味はない・・・
昭和14年と言えば、未だマジックを行なうものは希少であったが、TAMCの会則では「会で得た情報は、対外的に秘密厳守・・・」と義務付けられていたため、内部資料と言うものの、演じ方などの情報が外部に漏れる事がない様に記載しなかったものと推測される。
その創刊に当って、研究内容を取りまとめたのがこの阿部徳蔵氏メモであった。
記載されている各項目は、マジックの現象をダイレクトに言い表しただけで、タイトルらしくなく、マジックのタイトルとしては素朴さを感じるが、それだけに、まだこれらのマジックの演技が、この世に定着していない当時のマジックの環境を押し知る事が出来ると思うと興味深いものを感じる。
まだ奇術研究が、それほど進んでおらず、奇術関係の書籍も殆んどない時代に、よくもこれだけのタイトルを書き出せたものだと、阿部氏の奇術研究のレベルの高さ、豊富な量には驚かざるを得ない。