<解説>
この奇術は二十世紀最大のカード奇術研究家Dai Vernonの名作です。
そのプロットは一組のカードの両面がすべて裏模様ばかりであるということを見せるものです。
そして最後に表模様が登場し、カードが普通のカードであることがわかるというストーリーになっています。
原作もよく構成されていますが、その後、いろいろな研究者が
裏だけを見せるいろいろなテクニックを提案することになりました。
それらのアイディアをあれもこれも!と取り込むと、恐ろしく長くてしつこい奇術ができあがります。
それでは見ている人は退屈するに決まっています。
それは手順構成としては賢明な方法でありません。
できれば、自然なハンドリングでカードが裏ばかりであることを簡潔に示した後、
さらりとクライマックスに導くのがスマートです。
ところで、この奇術はあまり演じている人をみかけませんが、その理由は使っている技法が多岐にわたり、スムーズに演ずるのが難しいということだと言われてきました。
しかし、筆者はもう一つの要素に気づいています。
それはこの奇術を普通のカードで演ずると、いくら上手く演じても「カードの表が裏ばかりに変化した!」とは思ってくれず、「何か技術を使ってカードの表を見せない工夫をしているのだな!」と思われてしまうという事実なのです。
それでは不思議な奇術ではなく、曲芸のような芸になってしまいます。
そこで、筆者は「カードのメーカーがミスをして裏ばかりを印刷したカードが作られた!」という話からこの奇術を始めます。
そうすると観客は「製造ミスということはたまにはあるかな!」と思ってくれるので、
最後に表が登場したとき本当の不思議を体験してくれることになります。
筆者はそのような演出でこの名作が流れるように演じられる簡潔な手順を構成しました。
そこでは、Half-Pass Undercutというオリジナル技法も活用して動作をスムーズにしています。
ぜひ、ご研究ください。