<解説>
これは厳密な意味では奇術ではありませんが、たいへんに不思議で面白いパズルです。
考えていると奇術以上の不思議感を味わえると思います。
筆者がこの図案を最初に見たのは1948年にKLMの機内サービス向けのパズルでした。
その時のデザインでは、四片で出来る図形と、五片で出来る図形とが、一方は正方形、
もう一方は長方形となっていました。1948年というと昭和23年ですから、
そのパズルの現物はどこかに行ってしまいました。
ところが、数年前にオランダのKLM本社に「50年以上昔にとてもいいパズルが機内で提供されたことがあるので、それを入手したい」と手紙を出したところ、驚いたことにそのときのパズルを探して送ってきて呉れたのでした。これには感激しました。こんなにサービスのしっかりした会社はあまりありません。
さて、このパズルをその後の研究していて、二つのデザインが両方とも正方形にするように設計の修正が可能であることがわかりました。ところが、これと全く同じ原理のデザインが日本では古くから知られていたらしく、
高木茂男著「パズルの百科」には中根彦循著「勘者御伽双紙」(1743年)に紹介されているとの記述がありました。
今回お届けするものは、基本的にはそのデザインと同じ数学的計算が基礎となっています。
ただし、表面の升目のデザインが、筆者の創作による全く新しいアイディアです。
実は、この升目の線がユニークなミスディレクションの役割を演じています。
<効果>
使うのは五片の紙片だけです。そして、パズルの課題は、「この五片全部を使って正方形を作れ!」というものです。
ところが、99%の人は四片を使った段階で正方形が出来あがってしまいます。
そうなると、どうしても一片が余ってしまいます。
そして、どうやって残りの一片を使えばいいかが皆目わかず、思考が迷路に入り込んでしまい、途方に暮れてしまうことでしょう。
そうしているうちに、五片を使ったのでは正方形は作れないのではないかとまで考え始める人もあります。
しかし、この問題には、よくあるように、頓知やジョークによるお笑いの解答があるわけではなく、
立派に五片を並べて正方形を作る方法が厳然と存在するのです。
<用具>
このデザインのサイズは筆者の計算設計によるものですが、升目を2cm間隔にデザインした場合、升目の線の太さは約2.4mm(数学的に正確にいうと{3√2-4}cm)でなければならないことになっています。
<写真1>を参照ください。
<方法>
正解を導く方法は今回はあえてお示ししないことにします。どうしても解けない人で悩まれる方は個人的に筆者にご照会いただくことをお願いします。正解を導くヒントは(√2)という数字にあります。これを頭において、図形の面積を分析してみると解決の鍵が見つかる可能性があります。
<注>
正方形を規則的な七個の切片に切り分けて、それを使って様々な図形を作って遊ぶ有名なパズルが知られています。これについてはマジックラビリンスの最初の氣賀の投稿に詳しい解説があります。
その有名なものは「タングラム」(最古の文献は1803年中国)と呼ばれるものです。そして、もう一つは日本に古くから伝わる「智恵の板」(最古の文献1742年日本)です。そして、その後、筆者は1979年にこれらと同じ属性を持つ新しいデザインを創作し、それを「キングラム」と名づけて発表しました。パズル界の権威である高木茂男氏とジェリー・スローカム氏に照会したところ、二人から「見たことがないデザイン」だという返信をいただき、それによってパズル研究家芦ヶ原伸之氏から「オリジナル」のお墨付きをいただいたものです。この三つのパズルには、いずれにも、極めて似た図柄で、実はほんの少しだけ違っている面白い出題図があります。その解答の背景には、今回のKLMパズルの答えと幾何学的に類似点がありますので、その図案をここにご紹介してみます。<写真2~4>興味のある方はぜひ厚紙で切片を作ってその解法もご研究いただきたいと思います。