氣賀康夫

康康と蘭蘭
(Kang Kang and Lan Lan)


    <解説>

     これは「泣き笑いカード」という古い古典奇術を、新しいセンスで演出するものです。 1972年発行の天海賞受賞記念作品集に発表しておりますが、数年前にTAMCの例会で再び紹介したことがあります。

    <効果>

     12枚のカードをよく切り混ぜて、観客がその中の2枚に印をつけます。 ところが、驚いたことにその2枚がパンダの絵のカードであり、その他の10枚は兎のカードであることがわかります。

    <用具>

  1. カード12枚を用います。その表には同じ絵が描かれています。これは筆者が特別にこの奇術用にデザインした向きによってパンダにも、兎にも見えるというユニークな絵です。<写真1> さて、カードの作り方ですが、お勧めするのは、名詞用の白いカードを求めて、このデザインを適当な大きさに拡大コピーして、スプレー糊で貼りつけて、縁を切りそろえるという方法です。なお、裏面は真っ白のままでかまいません。なお、名詞の紙というものはたいへん滑りが悪くて取扱いにくいものです。ですから、表面に良質の石鹸をぬっておくというのは賢いアイディアです。
  2. 写真1
  3. もう一つ大切なのは、4Bくらいの濃い鉛筆を一本用意することです。

    <準備>
     12枚のカードの向きをパンダ、兎、パンダ、兎…という具合に、一枚おきにしておくだけです。

    <方法>

  1. 12枚のカードを裏向きにして取り出し、それを広げて見せながら、次のような話をします。 「昔、中国が日中友好のためカンカン、ランランという二匹のパンダを上野動物園に贈ってきたことがありましたが、 そのとき上野動物園でちょっと困った問題が起こったのです。 というのは、パンダ2匹と一緒に10匹の兎を同じような箱に入れて送ってきたのでした。 ご覧下さい。ここに12枚のカードがありますが、丁度こんな感じで、箱の外見を見ただけでは、どれがパンダで、 どれが兎かがわからないのでした。そこで、動物園側は中国に急いで電報で照会をしました。 すると、中国からの返電があり、奇妙な指示が返ってきたのです。」
  2. 「それによると、まず、箱をめちゃくちゃにまぜること。」ここまで話をして、術者は自分でカードを2回カットします。そして、観客の一人にそれを手渡し、あと2回くらいカットしてもらいます。カットは12枚のセットを乱す心配がありません。
  3. 「次に、任意の二個の箱に印をつけるようにとの指示がありました。」と言います。ここで、観客に鉛筆を手渡し、術者は後ろを向きます。そして、「では、カードの上半分くらいを取り上げてテーブルのわきに置いてください。そして、残りの一番上のカードの上に鉛筆で『カンカン』と書いてください。」と言う。
  4. それが終わったら、 「では、そのカードをひとまずテーブルの上に置いてください。そして、次のカードの上に『ランラン』と書いてください。」と言います。
  5. そして、「ランランのカードをカンカンのカードの上に重ねてください。すると、テーブルの上に二枚のカードがありますね、では、それをそのまま持ちあげて、残りのカードの上に戻してください。」と言います。<写真2>
  6. 写真2
  7. 最後に、「では、わきにどけておいたカードを元のように上に乗せてください。とお願いします。
  8. ここで、後ろ向きのまま後ろ手の両手を観客の方に差し出して、「では、全部のカードを私の手の上に乗せてください。」と言います。
  9. カードを受け取ったら術者は前に向き直ります。カードは必然的に観客から見えない位置になります。「では、念のためカードを数えておきます。」と言います。次の動作が大切です。カードを12枚数えながら、左手から右手に一枚ずつカードを手渡していきながら、1枚目は上、2枚目は下という具合にカードを交互にしていくのです。<写真3>そして、12枚が終わったら、下に飛び出しているカード6枚を引き抜いて、向きの上下を逆向きにして残りの6枚の上に乗せます。秘密の動作はそれで終わりです。
  10. 写真3
  11. 「確かに12枚あります。」と言いながら、カードを前に持ってきます。そして、術者はここでカードを少しシャフルしてから観客に手渡し、「カードを混ぜてください。」と言います。
  12. 観客がカードをシャフルしたら、再びカードを返してもらいます。ここで、トップを見て、トップに「カンカン」か「ランラン」と書かれたカードがあるときは、それがトップにならないように一度カットをしなければなりません。トップが白紙のときはそのままで構いません。
  13. ここで、カードを揃えて左手に持ち、トップカードを左手拇指で右方向に押し出します。そして、そのカードの右側の下に右拇指、上に中指をあててそのカードを取り、それを90度起こして、カードの表面が術者の方を向くようにしながら、これは「兎です。」と言います。<写真4>このとき、術者から見て、表がパンダに見えるケース(A) と兎に見えるケース(B)とがあります。 もし、(A)の場合は、そのまま右手をさらにもう90度回転して、表が真上を 向くようにします。そして、それをテーブルの上に置きます。すると、その カードは観客側からは兎の絵に見えることになります。 一方、(B)の場合は、そのカードを元通りトップに戻して、右手で それを横向きに表返して、テーブルの上に置きます。
  14. 写真4
  15. ここで、残る11枚のカードを表向きにするのですが、
    (A)の場合は、カード11枚を上記の縦方向に180度回転させる動作で実行し、
    (B)の場合は、カーと11枚を上記の横方向に180度回転させる動作で実行します。
    そして、この11枚をそのままテーブルの上に並べていきます。この結果、12枚のカードがテーブルの上に並ぶことになりますが、観客側からは10枚が兎、2枚がパンダに見えることになります。<写真5>
  16. 写真5
  17. いよ、クライマックスです。まず、パンダの向きの一枚を右手で取りあげ、横向きに裏返して、元の位置に置きます。すると裏にカンカンかランランと名前が書いてあることがわかるでしょう。<写真6>
  18. 写真6
  19. 次に、もう一枚のパンダのカードを右手に取り、今度はそれを縦方向にひっくりかえします。はやり、名前が書かれていますが、このように手順を踏むと、書かれた文字の位置が同じ方向に向くようになります。この配慮が大切です。
  20. 最後に「もちろん、兎の10個の箱には何も印はついていません。」と言いがなら、残り、10枚のカードを裏返して、それを確認します。そして、「それにしても中国側はどうして、上野動物園の係りが印をつけた箱にパンダが入っていると分かっていたのでしょうか。これは今日に至るまでなぞとされています。」と言って話を締めくくり、演技を終了します。

    <注>

  1. この奇術では、デザインで向きによってパンダが兎かに変化するということは観客にも容易に想像がつくことでしょう。それはそれで構わないのです。なぜ、観客が名前を書いたカードがパンダの向きになるのか?それが不思議というわけなのです。
  2. この巧妙な手順どおりことを進めると、鉛筆で書き込みをした2枚のカードの位置関係がそれ以外と変わってしまうのですが、観客がそのことに気がつきにくいように構成されています。それがこの手順の優れたところです。
  3. 演技が終わったら、あとで、鉛筆の文字をゴム消しで消しておきます。そうすれば、同じカードを何度も使うことができます。

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