<解説>
この奇術の原作者はフランク・ガーシャとされています。
筆者がニューヨーク在住のときよくお会いしましたが、快活で才能豊かな研究家でした。
この作品の現象はたいへんユニークで魅力的です。
日本に紹介されてから、いろいろな人がその演出を工夫し、紹介しています。
この機会に、「こう見せるのが一番自然で、効果的!」と考える演じ方をご提案することにします。
この奇術のように仕掛けのある数枚のカードで演ずる奇術を一般にパケットトリックと呼びます。使うカードを専用のケースに収めておき、そこからカードを取り出してパケットトリックを演ずる人を多く見かけますが、それはあまりいい演出方法ではありません。
筆者は、パケットトリックといえども、一組の中に必要なカードを用意しておき、無造作にそれを取り出すことによって、極く普通のカードで演じているように演出するのが好ましいと考えています。
<現象>
カードを3枚示します。その中の1枚はハートのクインであり、残り2枚は黒のカードです。クインを二枚のカードに挟むと、不思議なことにその寸法がだんだんに長くなっていきます。
しかし、最後には、何も怪しくない元の寸法にもどります。最後に、クインの裏模様の赤色が変わってしまいます。
<用具>
1.この奇術のためには仕掛けカードが一枚必要ですが、これは普通のカードを加工することで簡単に作成できます。その作り方を説明しましょう。
青のバックのカード一組からクラブの7を取り出し、その裏面に仕掛けを作ります。それにはまず、ハートのクインの表をコンビニでカラーコピーします。そして、それをやや厚みのある紙に張りつけます。なお、平らに貼るにはスプレー糊が便利です。そして、それを上下の真ん中で二つに裁断し、その片方を使います。この一片をクラブの7の裏面に糊づけします。それにも接着はスプレー糊の使用をお薦めします。なお、クラブの7を使うのは、上下の向きが分かるというメリットのためであり、例えば、仕掛けのクインはクラブの7の中央のクラブの印がある側の半分に貼りつけるものと決めておきます。<写真1>
写真1
2.赤模様の一組からハートのクインを借用します。演出のためにハートのクインの顔の部分(上下)をやや桃色に彩色しておくと効果的です。水彩絵の具か色鉛筆を使うのがお勧めです。
<準備>
青模様の一組からはハートのクインをあらかじめ取り除いておく方がいいでしょう。そして、スペードの8と、仕掛けのあるクラブの7と、赤のハートのクインの合計三枚を、一組のカードの表(ボトム)近くに適当に位置させておきます。なお、順番は、表側からスペードの8、クラブの7、ハートのクインの順がいいでしょう。
<方法>
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カードをケースから取り出して、裏向きに持ち、下の方のセットの部分が乱れないように上半分だけをシャフルしてカードを切り混ぜます。これも一種のフォールスシャフルです。なお、このときハートのクインの赤模様がチラリとしないよう注意が必要です。
- カードを表向きして両手の間に広げていき、「黒のカードを2枚使います。」と言いながら、まず、スペードの8を抜いて表向きのままテーブルの上に置き、次に、クラブの7を抜き出して、その上に重ねて置きます。
- 次に、「ところで、ハートのクインが面白い性質を持っていることをご存知ですか。ハートは愛を表わし、クインは女性を表わしますので、ハートのクインは美男子と会うと、突然ポーッとなり、舞い上がってしまうのです。」と説明しながら、ハートのクインを取り出して、テーブルのカードの上に表向きに置きます。テーブルの3枚は上からハートのクイン、クラブの7、スペードの8となります。
- 他のカードは片付けて裏向きにしてわきにどけておきます。
さて、3枚を表向きのまま取りあげて左手に持ちます。
そして、3枚のカードの右側の上下の隅を右手の拇指と中指で挟み持ち、
そのまま手首を返して、裏(スペードの8の裏)を見せて「3枚のカードを使います。」
と言い、<写真2>
写真2
再び向きを表向きに戻して、
左手の拇指で一番表のカード(ハートのクイン)を左に引いて左手にそれを取り、
「一枚」と言います。<写真3>
写真3
- 次に、上記と同じ動作で右手の2枚の裏を見せた後、向きを表向きに戻して、左手の拇指で一番表のカード(クラブの7)を引き、それを左手のカードの上に取り、「2枚」と言います。
- 最後に、再び同じ動作で右手のカードの裏を見せた後、向きを表向きに戻してから、そのカード(スペードの8)を左手のカードの上に取り、「3枚」と言います。なお、以上の動作は、右手のカードの裏を検めたという印象を与える感じで行ってはなりません。左手にカードを1枚ずつ手渡しながら、ただそれを数えたという雰囲気が大切です。
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左手のスペードの8を右手に取り、テーブルの上に置きます。次のクラブの7をその上に重ねます。ここで、「では、クインの面白い性質をご覧に入れましょう。」と言い、最後のクインを二枚のカードのやや右寄りに置きます。<写真4>
写真4
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2枚の黒のカードを取りあげます。そして、クラブの7の中央のクラブ印がどちら側を向いているかを確認します。もしも、中央のクラブ印が手前側にあれば、二枚のカードを左右横方向に回転させて裏向きにします。しかし、もしも、中央のクラブ印が向こう側にある場合には、二枚のカードを上下縦方向にひっくり返して裏向きにしなければなりません。こうすると、隠している仕掛けのクインは術者側に来ることになります。
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この二枚を左手に持ち、カードの左側の手前半分を左手の拇指で隠しつつ、二枚のカードを少し広げます。このときのカードの回転軸は左下隅であり、広げる幅は左上隅で1cm強程度が理想です。この広げ方だと二枚目の裏模様が丁度よく見えます。る。<写真5>
写真5
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テーブルの上のクインを観客(男性)方に差し出して、「指でこのクインの手のところをちょっと触ってみてください。」と言います。そして、「こうすると、このクインにその気があるかどうかわかると思います。」と説明します。そして、そのクインを表向きのまま、左手の二枚のカードの間に挟んで押し込みます。そして3枚が並んだら、カードを一旦完全に揃えます。
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ここで、三枚を公明正大に数えて見せる手法があります。カード3枚を重ね、その左下隅に右手拇指、左上隅に右中指を当ててカードを挟み持つようにします。そして、左手の拇指で慎重にトップの一枚を左にずらします。このとき下の2枚がずれないように細心の注意が必要です。トップカードが1cm程度左にずれたら、それを左手に拇指で引いて左手に取ります。取ったカードは配り手の持ち方で左手に保持されることになります。次に、右手の2枚のカードを重ねた状態で左手の1枚の真上に持って来ますが、この2枚は、厳密に言うと左のカードより左側に1cm程度ずれた位置に持ってきます。そうしたら、左手の拇指でこの2枚を押さえておいて、右手の拇指と中指で下の一枚を挟み持ち、右に引きます。そして、手を返して、そのカードの表(スペードの8)をチラリと見せて、それを左手の2枚の上にポンと重ねます。このフォールスカウントはいわゆる「Count four as four」とも呼ばれるエルムズリカウントの応用です。いわば「Count three as three」ですが、さほど難しい技法ではありません。
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ここで、カードを左手に持ち、右手中指でトップのカードを1cmくらい手前に引きます。<写真6>するとクインが向こう側に見えます。そこで、そのクインを向うに1cmくらい引き出します。そして、さらに一番下のカードを右手で上に引き出します。このとき、3枚がよく見え、裏向きの2枚の間にクインがあることが確認できます。
写真6
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右手中指でボトムのカードを押し込みます。次にクイン少し上に引きあげ、右手拇指で手前に引かれたトップカードを押し込み、ボトムカードと揃うようにします。この時点では、ハートのクインだけが少し向こう側に突き出して見えている状態です。
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次に、右手の指でクインの向こう端をつまみ、向うにさらに引き出します。クインの胸が見えるくらいで一旦止めます。
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さて、ここで、右手の中指で向こう側に突き出ているクインを下に押し込みながら、同時に左手の食指をボトムカード(クラブの7)の向こう端に掛けてそれを手前方向に引くようにします。<写真7>すると、カードの上下にクインが見えるようになり、クインが長くなったような錯覚を起こします。このとき上下のクインの顔の目が丁度見えるくらいが具合がいいでしょう。
写真7
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「ほら、クインが美男子に会うとポーッとなって、背が伸びて来るのです。これはあなたも魅力にハートのクインがひきつけられた証拠です。ご覧ください、顔も心なしか赤らんでいますね。」と言います。そして、次が大切な動作です。右手の拇指で一番上の裏向きのカード(スぺードの8)の左側を数ミリめくり上げてそれを左手拇指で軽くささえます。こうするとその1枚が下の2枚と少し離れるようになるでしょう。ここで、そのままの状態で、トップのカードの向こう端と手前端を右手中指と拇指で挟み持って前後に動かすと、二枚目にある長いクインが1枚のように見えます。
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次に、上下に飛び出しているクインを少しづつ引き出してその位置を調節します。どのくらいの位置にするのかというと、カードの上下がそれぞれ長さの1/4突き出すところまでです。バイシクルのカードのデザインの場合ですと、丁度上下にクインの下唇が出るくらいの位置になります。この位置になると、本物のクインの下端が、仕掛けのクインの端と一致してひっかかるようになります。クインの長さは通常の1.5倍になっている計算です。観客にはクインがかなり長くなった感じがします。
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この状態で、左手の食指でボトムのクラブの7の真ん中の位置で面をやや押し上げるように圧力をかけます。そして右拇指で手前に出ているクインを押しこんでやると上下のクインが一緒に向こうに動きます。<写真8>
写真8
そして、今度は右中指で向こう側に突き出しているクインを押し下げると上下のクインが一緒に手前方向に動きます。<写真9>この動作によって、観客からみるとクインがどうみても一枚の長いカードのように見えます。
写真9
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最後に、上下のクインが、長さの半分弱出るまでカードを引き出します。このときの印象はクインが通常の2倍近い長さになった感じです。バイシクルのデザインでは花を持っているクインの手が見える位置です。この位置以上に広げると、カードの位置が入れ替わってしまうというトラブルの原因となるので、注意が必要です。
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「このようにクインの背が高くなったように思うのは実は心理的な現象であり、われわれの錯覚なのです。」と説明します。直ちに右手の拇指と中指でクインの向こう端と手前の端とはさんで同時にそれをゆっくりと押しこみます。<写真10>そして、クインが完全に一番上のカード(スペードの8)と揃った瞬間に、その一番上のカードを左手拇指で右方向に押し出してそれを右手に取ります。すると、左手のトップに見えるカードは極く普通のクインであることが確認されます。
写真10
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次に、右手のカードをクインの上に乗せるのですが、このときは、その位置を手前に2cmほどずらしておきます。<写真11>
写真11
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右手で、クインを引っ張り出してそのままテーブルの上に置き、右手拇指で手前に2cmほどずれている上のカードを押し込んで、2枚を完全に揃えます。そして、その2枚を一緒に表返しにして、それを広げて、それがクラブの7とスペードの8であることをよく見せてから揃えてテーブルの上にそっと置きます。上がクラブの7です。
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いよいよクライマックスです。「このクインはよほどお客様が好きになってしまったらしく、赤い顔をしていますよ。」と言いながらテーブルの上のクインを持ちあげて、その表を観客に示します。「そうは見えませんか?でも後ろから見るとクインの背中は真っ赤ですよ。」と言いながらクインを裏向きにして見せます。そうするとカードの裏が突然赤に変わったように見えるでしょう。
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テーブルの上の2枚のカードを揃えたまま取りあげて裏向きにして、一組のカードの上に乗せます。そして、最後にハートのクインも一組の上に乗せ、一度カットします。そしてカードをケースにしまいながら、「この奇術を演ずるとハートのクインの裏模様がこのように赤に変わってしまうので、もう二度とポーカーなどのゲームには使えないのです。」と説明します。