氣賀康夫

帰宅するコイン
(Homing Coins)


<解説>

 この奇術は筆者がボボのトラベリングセンタボズを検討していて、エクストラコインを使わない方法を研究する過程で完成した手順です。
 1964年発行の「コイン奇術の研究」という本に発表しましたが、英国の奇術誌GENにも投稿したところ好評でした。同じ年にロスでダイ・バーノンに見て頂いたときには「僕のカンガルーコインズをテーブルの上で演ずる優れた手順だ」と大変お悦びいただいた思い出があります。
 ユニークな手法をいくつか用いているので、読者の研究の参考になる個所もあると期待いたします。

<効果>

以下に連続写真でこの手順の効果をお示しします。

写真1
グラスにコインがある
写真2
出して数えると

写真3
4枚である
写真4
4枚を右手に握り

写真5
グラスの底にぶつける
写真6
右手は3枚になりグラスに1枚ある

写真7
3枚を取りあげ
写真8
右手に手渡す

写真9
もう1枚はグラスに戻す
写真10
3枚をグラスにぶつける

写真11
右手が2枚になった
写真12
両手に2枚ずつある

写真13
左手の2枚をグラスに戻す
写真14
2枚を底にぶつける

写真15
右手は1枚になる
写真16
グラスに3枚入っている

写真17
最後の1枚を右手に持ち
写真18
3枚をグラスに戻す

写真19
最後の1枚を底にぶつける
写真20
グラスから4枚が登場する

<用具>

コイン4枚、アメリカの50セント銀貨(ハーフダラー)が適当でしょう。グラス一個、これは透明なタンブラーでいいと思います。切子グラスのように半透明のものあるいはプラスチックか金属性のグラスでもいいでしょう。

<方法>

<プロローグ>

1.グラスに4枚のコインが入っています。

2.左手でグラスを取りあげ、揺すって中でコインの音がするようにします。<写真21>

写真21

3.右手の掌を上に向けて、左手のコインをそこに出します。<写真22>

写真22

4.グラスをテーブル左側に置き、左手の掌を上に向けて、右手で右手のコインを一枚ずつ数えながら左掌に置いていきます。<写真23>

写真23

5.空の右手の四指を立てて「4」を示して「コインが4枚あります。」と言います。

6.ここで、左手のコインを右手の掌に手渡しますが、そのとき左拇指でコインを一枚押さえこみます。同時に右手は握りしめて拳にし、一方左手はコインをフィンガーパ―ムに保持します。<写真24>

写真24

7.そうしたら、左手でグラスを掴み、その口を観客の方に示します。<写真25>フィンガーパ―ムしているコインはグラスの真下に隠れています。

写真25

8.左手のグラスをテーブルの中央に置きます。そして右手の握りを緩めて「1、2、3、4!」と数えつつ、上下に振り、拳の中でジャラジャラジャラジャラと音がするように仕向けます。そして、そのタイミングで左手のフィンガーパ―ムの1枚を中指で掌にきつく押しつけるようにして、クラシックパームにします。

<第一段>

9.そして、その左手の指でグラスを上から掴み持つようにします。<写真26>

写真26

10.右手の拳をグラスの底にぶつけてコツコツと音をたてます。そして、次の瞬間、右手を開いて持っていたコイン3枚がグラスの底に当たるようにします。
同時に左手のパームを緩めると、隠し持っていたコインがグラスに落ち、あたかも右手のコインの1枚がグラスの底を通り過ぎてグラスの中に入り込んだような錯覚を起こします。

11.右手の3枚をテーブルの上に出し、続けてグラスを右手に取り、中のコインをその右側に出します。<写真27>そして空のグラスを一番右側の位置に置きます。

写真27

<第二段>

12.左手の掌を上向きにして、右手で3枚のコインを一枚ずつ拾いあげて左手の上に置いていきます。このとき、最初のコインを中指の手首に近い指骨のところに置きます。そして2枚目、3枚目は薬指、小指の根元の辺りに位置させるようにします。<写真28>右手の指を三本立てて、「コインが3枚あります。」と説明します。

写真28

13.ここで右手の掌を上に向けて左手のすぐ右の位置に持ってきます。そして左手の3枚をその右手に手渡し、右手はそれを握りしめるようにします。
ただし、それは外見であり、実際にはコインを手渡す動作の直前にそっと左食指を中指の位置のコインの左端の上に持って来てそのコインを食指、中指で挟み持つようにします。
テクニカルにはこのコインの持ち方をピンチと呼びます。<写真29>したがって実際に右手が握ったコインは2枚になります。

写真29

14.続いて左手の拇指と中指でテーブルの1枚のコインを拾いあげて、それをグラスの中に落とします。<写真30>そして、直ちにその右手でグラスを持ちます。ただし、このときはグラスを持つ左手は拇指が手前側、薬指と小指が向こう側に位置します。食指と中指はコインを保持しているのでグラスを持つ仕事には参画しておりません。<写真31>

写真30
写真31

15.左手はこの姿勢で、右手の拳でグラスの底をコツコツと叩き、続けて手を開いて持っていたコインをグラスの底にぶつけます。
そのタイミングで左手の食指と中指を緩めるとコインがグラスの中に落ちます。

16.右手のコイン2枚をテーブルの右側に置き、その右手でグラスを持ち、中身のコイン2枚をテーブルの左側に出して、グラスをテーブルの中央に置きます。

<第三段>

17.右手でグラスの右側のコイン2枚を拾いあげ、掌にのせて観客によく見せます。このときのコインの位置は指の方ではなく、掌に二つコインが並ぶようにします。<写真32> 左手の指を二本立てて、「コインはあと2枚です。」と言います。

写真32

18.左手でグラスの左側の2枚のコインを一枚ずつ取り、グラスに入れます。

19.左手でグラスをそのまま取りあげます。

20.右手を一旦握り拳にしておいてから、それをグラスの底にコツコツとぶつけ、最後に右手を開き右手がグラスの底に当たるようにします。
このとき大切なことはグラスの底が右手の小指寄りに位置させていたコインを完全にカバーすることです。<写真33>
この動作に際しては、右手のコインだけではそれらしい音が出ません。そこで、左手がグラスを右手にぶつける瞬間に左手をやや勢いよく上下動させることが肝要です。なお、この瞬間は見ていて怪しいところはありませんので、一瞬間を置くのが良いと思います。

写真33

21.次に、右手をやや内側に回転させつつ掌の食指側に位置していたコインを拇指で挟み持ち、小指側のコインがテーブルに落ちるように仕向けます。<写真34>

写真34

22.ここで、左手でグラスを振り、中でコインがジャラジャラ言うのを聞かせます。このタイミングで右手はいわばサムパ―ムに近い持ち方をしていたコインをフィンガーパ―ムの位置に変更しておきます。

23.そして今度は右手でグラスを持ちます。
このときにはグラスを支えるのは右手の拇指と食指であり、他の指はゆるめておきます。左手でテーブル上の1枚のコインを取りあげて、右手はグラスの口を左に向けてグラスのコインをテーブルに出します。このときグラスからは2枚しかコインは出てきませんが、同時に右手のフィンガーパ―ムの中指、薬指を緩めてそのコインも一緒にテーブルに出て来るようにしむけます。<写真35>

写真35

<第四段>

24.左手の1枚のコインを指の上に乗せて示し、「これが最後の1枚です。」と説明します。

25.右手のグラスを右に置き、その右手の掌を上に向けます。そして左手のコインをそのまま右手に手渡す動作をしますが、それはジェスチャーであり、実際には左手のコインはそのままフィンガーパームで保持したままにします。<写真36>右手は握って拳にします。

写真36

26.ここから左手でテーブルにある3枚のコインを一枚ずつ拾いあげてグラスに入れる動作をします。
ただし、実際には1枚目は普通に一枚をグラスに入れますが、2枚目のときにそのコインと同時にフィンガーパームしていたもう一枚を同時にグラスに入れてしまいます。<写真37>
そして最後の3枚目は堂々とコインを示してからそれをグラスに落とします。

写真37

27.いよいよクライマックスですが、実はもう仕事は終わっています。
最後に左手でグラスを掴み持ち、右手を少し開き気味にしてその中を術者自身がのぞき込み、「では最後の一枚にご注目ください。」と言い、右手の拳を開いてグラスの底にぶつけます。
このときも、普通ではそれらしい音がしませんから、両手をぶつける前に左手でグラスを上に動かしてそれらしい音が出るように配慮します。

28.右手を開き、その手が空であることをよく見せてから、その右手でグラスを持ち、グラスの口を左に傾けてコイン4枚がザラザラとテーブルに出て来るようにしむけます。<写真38>

写真38

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