氣賀康夫

コイン奇術の世界への招待


 東京マジックさんのお勧めで、このたびコイン奇術講座を始めることといたしました。 これまでマジックラビリンス欄でカード奇術に関する筆者の長年の研究をご紹介してまいりましたが、 それが間もなく完結するので、続いてコイン奇術の研究を紹介してはいかがかとのご提案をいただきました。
筆者はコイン奇術の権威というわけではなく、我が国に優れたコイン奇術の研究家が多数おられるのを承知しています。 しかし、せっかくのおすすめなのでこれまでに研究を重ねてきたコイン奇術について情報提供することにいたしました。

<写真1>

 コイン奇術はクロースアップマジックの花形です。 クロースアップマジックでは幾何学的に代表的な姿の品が活躍します。 例えば四角く立体的なものと言えばサイコロであり、四角く平なものと言えばトランプ、丸い立体的なものと言えばボール、そして丸く平らなものと言えばコインであるという具合です。 さらに細く長いものはシガレット、柔らかで長いものは紐であり、薄く平らなものはハンカチですね。
 ところで、筆者は奇術のための手法は、難しく複雑であることがいい方法であるという考え方は採りません。できることなら誰でもが練習すればできるという手法が望ましいと考えております。手法に関して大切なことは見た目怪しいところがなく、自然な動作の中で不思議を演出できるという点です。シンプルイズザベストと考えております。
 なお、筆者は奇術の秘密を大切に隠し通したいと考える立場ではありません。もちろん観客には奇術の秘密を明かすべきではありませんが、同好の士である研究家の方々とは、自分が開発した手法であっても、ノウハウを共有し、将来の研究の足しにしていきたいと考える立場です。今回この講座をお引き受けする前提はコイン奇術を通して奇術のあるべき姿を追求してみたいという思想です。研究家同士が力を合わせて奇術の発展に少しでも寄与できればよいと思います。

 では、講座を始めるにあたりコイン奇術に関する本をいくつかご紹介しておきましょう。
1.<写真2>は筆者が1964年に力書房から出版した日本初のコイン奇術の本「コイン奇術の研究」です。ただし、これは専門書ですので、あまりお勧めするつもりはありません。実はこの書の序文に「近々根本毅氏のコイン奇術入門書が出版されるので、それを参照ください。」というくだりがあります。当時、その出版計画をお聞きしていたからです。ところがその後この入門書は陽の目を見ることがありませんでした。いわば幻の本です。


<写真2>

<写真3>

2.そして、その後、我が国の最初のコイン奇術の入門書を書かれたのは二川滋夫氏です。氏には複数の名著がありますが、ご本人にお聞きしたところ、「この一冊!」というのであれば、東京堂出版の奇術入門シリーズ「コインマジック」をお勧めしたいとおっしゃられました。まず、買って勉強するのであれば、第一にこの本をお勧めします。<写真3>をご参照ください。

3.洋書でコイン奇術の本を!という方にお勧めしたいのはJ. B. BoboのModern Coin Magicです。<写真4>を参照ください。


<写真4>

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4.最後の一冊です。Boboに続きコイン奇術の研究で名をあげたのはDavid Rothです。Roth の研究の多くは著書「Expert Coin Magic」に書かれております。<写真5>をご参照ください。 それではコイン奇術の世界への扉を開きましょう!

第2回