平川一彦

パンドワー
第20回
イン・スペクテイターズ・ハンド

現象

 客が覚えたのと違うカードがデックの中で表向きになっています。客自身がそのデックを両手間に広げると、そのカードは客のカードに変化しています。

準備

ハーフ・フェイク・カード(HFC)<写真1>           1枚
HFCと同色、同サイズ、同デザインのデック(客から借りてもOK)1組

HFCはダブルバックカードの左側半分にレギュラーカードのスペードの5(S5)を縦半分にカットしたのを貼り付けたものです。このカードは他のカードと厚さが違うので、ショートカードの役目も果たします。従って、コーナーをカットする必要はありませんが、心配ならば右上コーナーだけをカットしておきます。

    写真1
    写真2

さらに、デックからHFCの表向きカードと同じスペードの5(S5)を取り除き、このカードは使用しません。HFCを<写真2>のようにデックのボトムから2枚目にセットしてケースに入れておきます。客はパフォーマーの前方にいる事になります。

手順

  1. パフォーマーはデックを取り出して左手にフェイスダウンに持ちます。HFCのS5は左側にきています。その位置を変えない好きなフォールス・シャフルを行い、最後にカットでHFCをデックの中央に持ってきます。ブレイクは作りません。
    次にデックを左手にフィンガーチップ・ピーク(親指と人さし指と中指)の形に持って、右手の人さし指でデックの右上コーナーを弾いて客にストップを掛けてもらい、そこのカードを覚えてもらいます。もちろん、そのカードはHFCの直ぐ上(次)のカードになります。ここではそのカードをダイヤのキング(DK)とします<写真3>
  2. 写真3
  3. 右手の人さし指は残りのカードを弾いて、両手でデックをオールアラウンド・スクエヤーで揃えながらアウターエンドとインナーエンドの上下を逆にします。するとHFCの表向きカード(S5)が右側へきます。
    そしてデックを両手間あるいはテーブルに左から右へ広げて、「あなたのカードはこの中の何処かにあります」と言います。もちろんHFCの表向きカードは見えません<写真4>。デックを左手に集めて再度オールアラウンド・スクエヤーでHFCの表向きカードを左側へ戻します。
  4. 写真4
  5. パフォーマーはデックを体の後ろへ回して、1枚のカードを表向きにすることを言います。パフォーマーは体の後ろで、右手の人さし指でデックの右上コーナーを弾きショートカードを感じ取って、その上のカード(客カード)を抜き出してそれをフェイスアップにターンして、今度はそのカードをHFCの下へ入れて揃えます(この方法は最後の訳者追記で簡単な方法を解説します)。
  6. 次にデックを体の前に持ってきて、左手のストラドル・ポジションに持ちます。即ち、左手の小指をデックのインナーエンドに、そして人さし指をアウターエンドに付けてデックを挟みます<写真5>
  7. 写真5
  8. 次に左手の親指はデックを広げる普通の方法でトップカードを右側へ送り出していきます。しかしながら、左手の中指の指先は、確実に1枚のカードだけが続けざまに右側へ送り出されるようにデックのフェイス側でスプレッドをコントロールしています。
    HFCの表向きのS5が見えるまでカードを広げてゆき、左手のパケットにHFCのS5が現れたら、左手の親指をS5より少し後ろ(左側)へ移動して、数枚のカードをブロック(一塊)で右へ押し出します。そうするとS5の下にあるフェイスアップの客カード(DK)は見えません<写真6>
  9. 写真6
  10. ここでパフォーマーは、客にその見えているS5が客のカードかどうかを聞きます。否定の返事と同時にS5が表向きであると客にはっきり分かるように示しながらデックを左手に揃えます。そしてデックを前にいる客に渡して覚えたカードが何であったかを聞きます。
  11. 客がカードの名前を言ったらパフォーマーは客が持っているデックの方へ何か神秘的ジェスチャーをして、客にカードを両手間に広げるように言います。客がカードを両手間に広げてゆくとフェイスアップの客カード(DK)が現れます。HFCは見えません。これはパフォーマーがデックを前方の客に渡すと、今まで左側にあったHFCの表向きカードが自動的に右側に移ってしまうからです。
  12. ただ、ここで客がカードを右から左へ広げる人でないという事に注意しなければなりません。また他に付け加えることは、客がデックを両手間に広げて客カードが現れたら、パフォーマーは直ぐにそのカードから上のカード全てをパフォーマーの左手に返すように言います。そのパケットのボトムがHFCです。続けてパフォーマーは何か論理的な口実を見つけて、同じFHCを使って同じ現象を繰り返すことが出来ます。
  13. 『M.I.N.T. vol.Ⅰ』by Edward Marlo、P.220~222


(訳者追記)
手順の3段階で、体の後ろで客カードを抜き出し、それを表向きにして今度はHFCの下へ入れるのは易しいようで案外難しいです。私はもっと簡単な方法で次のように行っています。

  1. デックを体の後ろへ回したら、右手の人さし指でデックの右上コーナーをリフルしてショートカードを感じ取ります。そこでデックをカットしてパケットの上下を入れ替えると、デックのトップにHFCが、そしてボトムに客カードがきます。
  2. 次に左手の平でボトムの客カードを剥ぎ取り、それを表向きにターンして左手の平に保持します。そして今度は左手の親指で右手が保持しているデックのトップカード(HFC)を左手の客カードの上に剥ぎ取ります。今、左手は2枚のカードを保持しています。その2枚のカードをデックのボトムへ戻してコンプリートカットをします。すると客カードはデック中央のHFCの下で表向きになっています。デックを体の前に持ってきます。失敗も無く非常に簡単です。
  3. また、もし相手のデックでこのトリックを行った場合は、最後に客カードから上のパケットを受け取った時に、「残りのカードも広げてチェックしてみてください」と言って客がチェックしている間に、受け取ったパケットのボトムカード(HFC)を左手にギャンブラーズ・パームをして処理します。そしてパケットを客に返します。
  4. また、客がデックを両手間に広げた時に、広げすぎて客カードの上にあるHFCのS5が見えるのではないかと不安な時は、<写真7>のようにテーブルにリボンスプレッドさせます。表向きの客カード(DK)の上(左)にあるHFCは、それ以上大きく広がりません。
  5. 写真7
  6. 次にパフォーマーは<写真8>のように右手で客カードから上(左)全部のカードを左手に集めて右手に持ち替えます。
  7. 写真8
  8. そして右手の親指でトップカードを少し左へずらし、その左サイドで残りのカードを掬い取ります<写真9>
  9. 写真9
  10. 左手にデックを揃えてトップの客カードをフェイスダウンにターンします<写真10>
  11. 写真10
  12. 右手でデックをテーブルへ置く時にボトムのHFCを左手にギャンブラーズ・パームをして処理します<写真11>
  13. 写真11
    マーローの原書には<写真7~11>の演技は載っていません。客が両手間にカードを広げて客のカードが現れたら、パフォーマーはそこから上のカード全てを受け取り、そのパケットのボトムはHFCなので、何か論理的な口実を付けて同じHFCを使った同じトリックを繰り返します。とだけ書いてあります。したがって、この<写真7~11>は、客がカードを広げた時にHFCのS5を見られてしまうのではないかと心配する人のために私(訳者)が付け足した方法になります。

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