長谷和幸

第二回 デヴィッド L.ヒューイット
「原始怪人対未来怪人(TV)」(解決編)

(前回のあらすじ)
 マジシャンとしてキャリアをスタートさせたデヴィッド L.ヒューイットは、特殊効果を担当した映画「原始怪人対未来怪人」をマジックだらけにしてみせます。そして翌1965年、彼は満を持して映画監督に乗り出します。
それが映画‘Monsters Crash the Pajama Party ’なのですが、同作は30数分しかなく、しかも途中でスクリーンが真っ黒になってしまいます……

 これら不自然な謎の解は、実はこの作品が通常の状態ではなく、スプークショーと呼ばれる、特殊なマジックショー内で上映されることを目的として制作されたことにあるのです。
そこでここで少し脇道に逸れ、まずスプークショーとは何か?というところからお話しを始めたいと思います。

スプークショー

 20世紀の初め、欧米では降霊術が大ブームとなりました。それが少しずつ変化し、マジックのトリックを用いて心霊現象・降霊 を舞台上で再現してみせるステージショーがアメリカで流行しました。これがスプークショーの始まりです(スプーク Spook はお化け・幽霊の意)。現在では完全に廃れてしまったアメリカ文化で、日本語版はおろか英語版Wikipediaにすら、その記載がありません。1940年代から60年代が最盛期であったと思われます。ところがブームが長期化するにつれ、その内容が徐々に変質してゆきます。初期のスプークショーはあくまで、本物の超常現象であるとの前提で観客に提供されていました。それが時の経過と共に、種も仕掛けもあるマジックであることを観客・興行側共通の認識として、その怖さ・グロテスクさを娯楽として楽しむように変化してゆきます。今日、ある年代のアメリカ人が懐かしく語るのは、この恐怖マジックショーとしてのスプークショーの方です。

 具体的な内容は、例えばギロチンや人体切断のようなレパートリーを、おどろおどろしい演出で演じるものでした。ショー内で怪奇映画が上映されることも多く、その関係から会場は深夜の映画館で、客層は高校生・大学生のカップルです。二人で外泊すると言えば許さない親も、スプークショーに行くと言えば手綱が緩くなったのでしょう。男の子は彼女の手を握ることが、一方の女の子はキャッと言って彼氏に抱き付くことがそもそもの目的ですから、内容は自然とより過激化してゆきます。(いつの時代も、青春とは可愛いものです)

 当時はステージマジシャンの出演場所が徐々に減少していた時代ですから、普通のマジシャンがこのスプークショーに手を染めることもあれば(代表的なのは、中央から切断したロープが一瞬にして復元するマジックの考案者として著名なビル・ネフ Bill Neff)、スプークショーをきっかけに後にマジシャンとなった方もいます。 そんなスプークショー・マジシャンの一人こそ、正にデヴィッド L.ヒューイットだったのです。

 自身でマジックを演じつつ興行師としても活動していたのですが、おそらくそのうち、ショー内で上映する映画は、自分で作ってしまった方が安価で手軽だと気付いたのでしょう。そこでまず脚本に手を染めた後、いよいよ実制作に乗り出したのが前述の‘Monsters Crash the Pajama Party’だった、というわけです。(同時上映はちゃっかり、「原始怪人対未来怪人(TV)」でした)
同作でヒューイットは、製作・監督・脚本・更には音楽と、デビュー作ながら八面六臂の大活躍をします。上映時間が短いのは、マジックショーとの抱き合わせ上映であったためです。

 黒みに関しては、劇中モンスターがカメラに向かって突進すると、フレーム内が真っ暗になります。すると悲鳴やモンスターの叫び声がしばらく映画館内に大音響で流されるのですが、実はこの時、劇中と同じ着ぐるみのモンスターが突然館内に現れ、客席を驚かして回るシナリオとなっていたためだったのです。現在ソフトで観賞するとそれが分からないため、おかしな演出と感じられてしまったわけです。

 この作品がまずまずの成功をおさめたため、ヒューイットは同年、満を持していよいよ初長編劇映画の制作に乗り出しました。
それが同1965年の‘The Wizard of Mars’です。私自身も未見ですが、タイトルから察せられる通りボーム作「オズの魔法使い」の舞台を火星に置き換えたSF 映画で、低予算の愚作であることで、批評は一致しています。
但し内容から推察するに、何らかのマジック的要素が含まれる可能性はあります。 むしろ同作には、作品内容よりも興行に関する面白いエピソードがありますので、御紹介しましょう。同作の出来栄えに不安を抱いた映画館主達は、上映に二の足を踏みました。するとヒューイットは劇場に赤い照明を多数設置しました。何事かと見ていると、ヒューイットは宇宙船が火星に着陸した以降のシーンになるとその照明を点灯し、場内を真っ赤に染め上げました。館主達はこの努力に感動し、公開を決意したそうです。やはり彼は映像作家というよりむしろ、天性の興行師だったのでしょう。

 ここからは、以降の活動を駆け足でお伝えします。
ヒューイットは、以後も映画監督を続けます。まず67年には2本を公開、タイトルを列記すると、「タイム・トラベル(ビデオ)」、「悪霊の巣窟 狂死曲13番(ビデオ)」です。
「タイム・トラベル(ビデオ)」(本邦において劇場公開もテレビ放映もされず、ビデオテープにて販売された作品については、このように表記します。以下同)は、自作「原始怪人対未来怪人(TV)」のリメイクです。同作の影響を受けたアーウィン・アレンのテレビシリーズ「タイム・トンネル(TV)」が話題になったので、ブームに乗って一儲けしようとオリジナルをリメイクしたのでしょう。但しメルキオール抜きでクオリティは大幅に低下し、しかもマジックのシーンは皆無ですので、観賞するならば「原始怪人対未来怪人(TV)」の方をお勧めします。

 次に「悪霊の巣窟 狂死曲13番(ビデオ)」ですが、これもその原題 Dr.Terror’s Gallery of Horrors からも分かる通り、当時話題になったアミカスプロの「テラー博士の恐怖」の便乗作です。あるいはもっと露骨に、うっかり間違えることを意図的に狙ったのかも知れません。怪奇俳優ジョン・キャラディンとロン・チェイニーJr. が共演していることと、タイトルを変えて何度も公開されていることのみが、好事家の語り草になっています。

「悪霊の巣窟 狂死曲13番(VHS)」アメリカ版VHSパッケージ
映画のシーンより、白黒スチール写真(但し、本編はカラー)

 68年には、‘Hells Chosen few’を監督します。ずいぶん大袈裟なタイトルですが、蓋を開ければ同年の大ヒット作「イージー・ライダー」のもどき商品、タイトルはバイク集団の名前でした。

‘Hells Chosen Few’
アメリカ版オリジナル劇場公開ポスター

 以上3本に共通するのですが、作品の内容ではなく何らかの話題性で劇場に呼び込もうとするところが、いかにも元興行師の面目躍如です。
続く69年の‘Mighty Gorga’は、探検隊がジャングルに分け入って行くと、そこには恐竜と巨大類人猿(これがマイティ・ゴーガ)がいて…というプロットでお分かりのごとく、「キング・コング」のコピー商品です。ジャングルのシーンは地元の動物園で撮影したこと、特撮が著しく稚拙なこと、ゴーガの着ぐるみには何と、ヒューイット自身が入って演じていること、等の裏話の方が映画そのものより面白い、と言われています。

‘Mighty Gorga’アメリカ版DVDパッケージ  他作品との混載版DVDパッケージ

 それでも懲りずにヒューイットは、70年には‘The Girls from Thunder strip’、翌71年には‘The Tormentors’、少し置いて78年の「ナチス・クローン(DVD)」(本邦では劇場公開もテレビ放映もされず、DVDにて初めて販売されたものについては、このように表記します。以下同)」、と一定のペースで監督しますが残念ながら、劣化し続けるクオリティに流石の私もついて行けず未見であるため、論評が出来ません。

‘The Girls from Thunder Strip’
アメリカ・オリジナル劇場公開版ポスター

 IMDbによれば71年にはもう一本、‘Pornography USA’というドキュメンタリーを手掛けているらしいのですが、同作スタッフの多くが変名であることもあり、これについてはよく分かりません。あるいは、当時日本でひっそり公開されている可能性もあります(成人映画に関しては、数が多い割には資料が極端に少ない)。
 68年以降の作品中唯一日本でDVD化された「ナチス・クローン(DVD)」は、アイラ・レヴィンの原作「ブラジルから来た少年」の映画化に触発された可能性大です。残念ながらこれが最後の監督作となりました。(まだ御存命ですが、ここではそうしておきます)

 これら後期の監督作よりもむしろ重要なのは、近年の監督以外の活動の方でしょう。低予算の即製作品ばかりを手掛けていれば、やがてキャリアが閉ざされてくるもの、と通常考えますが、実はヒューイットは、21世紀になってからも活動を続けているのです。特に、ディズニーの「ミクロキッズ」、ジョージ・ルーカスの「ウィロー」等大作映画の特殊効果スタッフに名を連ねているのは、特筆に値します(因みに「ウィロー」のマジック指導は、デヴィッド・バーグラス。流石大作映画です)。

   「アタック・オブ・ザ・ジャイアントウーマン(DVD)」では、エンドクレジットで謝辞を捧げられています。同作は低予算故デジタルイフェクト・合成等を使用せず、遠近法応用のレンズ・トリックを用いて巨人を表現していました(照明を明るく当て、レンズを絞り込む。すると奥から手前まで広い範囲にピントが合うので[これを、被写界深度を深くする、という]、奥と手前に人物を立たせ、ワイドレンズで撮影すると、手前の人物が巨人に見える。「未知との遭遇」の、砂漠の奥に俳優を立たせ、手前に廃船のミニチュアを置いたショットが代表例)。当時光学合成の会社に所属していたヒューイットには一見関係の無さそうな作品ですが、あるいはその辺りをアドバイスしたのでしょうか。
一時期の低迷はあれ、やはり才能のある人物だったのかも知れません。

 今年で81歳。数年前の「Genii 」誌には、マジックキャッスルを訪れた「原始怪人対未来怪人」の監督イブ・メルキオールの写真が掲載されていました。ヒューイットも今も元気に、マジックを楽しんでいることを願っています。

※参考文献:
‘Ghostmasters’(Mark Walker)
‘The Psychotronic Video Guide’(Michael Weldon) IMDb
‘Monsters Crash the Pajama Party’
‘The Wizard of Mars’

※画像出典:
‘Ghostmasters’(VHS)
‘Monsters Crash the Pajama Party’(Something Weird DVD)
 IMDb(International Movie Database)

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