古川令

FISM’2000(リスボン大会)


会場入口のポスターをバックに娘と

 IBMのコンテストで感触が掴めたので、3年に1度のFISM(マジック協会国際連合)のコンテストを目指す事としました。1997年のIBMのコンテストの半年後には一旦帰国しましたが、幸い99年に再駐在でセントルイスに戻ってきました。

 当時のFISMのコンテストは、各地域での予選は無く、国を代表するマジックの組織の代表者からの推薦状があれば、ビデオの審査だけで決まりました。幸い、セントルイスのハリー・モンテがその年のSAMのNational President(会長)であったので、SAMから推薦状をもらってアメリカから応募し、家族で参加してきました。右の写真は、ステージショーの終わった後にFISMの会場入口で娘の靖子(当時10才)と一緒の所を家内が記念に撮ったワンショットです。
 リスボンのFISMの会場は、立派な大ホールやコンベンションホールがあるベレン文化センターでした。


アメリカ代表になっていたプログラム

 SAMの推薦だったので、プログラムでは私はアメリカ代表になっていました。アメリカ代表では万が一にも入賞した時に困ると、現地で急遽日本代表に変えてもらいました。
 ちなみに、プログラムにあるMAはマニピュレーション、GMはゼネラルマジックの略で、他にもイリューションやコミック、クロースアップ(カードとマイクロマジック)など、部門毎に審査されます。


会場のベレン文化センターをバックに娘と

 そのコンテストですが、当初は簡単なリハができるという話でしたが、会場で散々待たされた上、結局は時間が無いとの事で簡単な打ち合わせだけになりました。海外のコンベンションでは日常茶飯事のようで、少々のトラブルで神経質にならない図太さが肝要です。

 演技の方はIBMの経験から、リラックスを心掛けたお蔭で致命的なミスはありませんでしたが、コンテストの評価の基準がIBMとは随分違うとの印象でした。 参考までにコンテストの審査用紙をお示しします。マニピュレーションではテクニックが40点満点と最も比率が高く、オリジナリティはショーマンシップの30点に次いで20点です。ちなみに、後日FISM事務局に問い合わせて教えて貰った私のスコアは64点でした。


 私が目指すミリオンカードは文字通り多くのカードの出現であり、それも少ないカードを使って、如何に信じられない数が出現したと思わせる事です。そのために一枚出しやファンプロダクションの技法ひとつひとつも、かなりこだわったつもりです。空中にスピンさせたカードからのファンの出現(これは高く評価頂いたとの印象)なども含めて、私の技法のほとんどはオリジナルか改良版です。 しかしFISMのクラスのコンテストになると、出し方のテクニックの違いなどは重視されず、例えばミリオンカードで言えば、サークルファンやマンモスカードなどのような、現象としてのインパクトのあるオリジナリティが必要との印象でした。

 インターネットでは、スー・アン・ウェブスター(S)とティム・エリス(T)のサイトにコンテスタント全員の詳細なレポートがあり、今でも閲覧できます。ティム・エリスは1994年のFISM横浜大会のクロースアップで2位の実績があるFISM通で、私の演技に対しては、二人から以下のような辛口のコメントを頂いています。

 T: High skill level, but nothing really stood out in this act... with the exception of the sheer volume of cards which shot out from behind his hands. He was a card producing machine! (高い技術レベルであるが、もの凄い量のカードが手の裏から出てきた以外には際立った現象は無かった。彼はカード製造マシンだった!)

S: Lots of skill. not much magic. (テクニックは十分。マジックは多くなかった。)

 私は、出現、消失、移動、変化などのマジックの現象の中で最も不思議なのが「出現」という考えを持っており、私が目指すミリオンカードは、和やかに微笑みながらも、想像を越える数のカードを出現させるような演技です。そのためには、基本技法のファンプロダクションや1枚出しにおいても、如何に見せるかという点にこだわりがあります。 しかし、ティム・エリスのコメント、FISMの観客の反応や採点のスコアなどから、私のミリオンカードは、IBMやSAMでは通用しても、FISMで入賞するにはさらに一工夫が必要と感じた次第です。

 後日、ウェブスターとエリスがセントルイスにレクチャーに来た時に、直接彼らの意見も聞きました。ミリオンカードに対する価値観にはあまり違いは感じられず、ウェブスターは「テンポで圧倒させた感があって、感動させるような不思議さは醸し出せていない」との意見で、ティム・エリスからは、スティングの名曲Shape of My HeartをBGMに勧められました。


お土産のピアトニックの特製トランプ


 スローなテンポでしっとりと魅せられればベストとは常々感じてはいたので、この機会にステップアップのためにBGMをスティングの曲に変えて、さらに従来とは違うマンモスカードの現象を加える事にしてみました。その結果は次回に・・・

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