私のジャンボカードのプロダクションの特徴は、パームを使わないのでマンモスカードでも演じられる点で優れています。しかし2005年のテンヨーマジックフェスティバルを最後に、マンモスカードの使用を一度やめました。その理由は、マンモスカードを使っても私が期待したほどまでの反響が得られず、カードが重くて持ち運びが大変という事に加えて、マンモスカードの大きさと重さに耐えられる大きな捨て場が必要という事でした。
私の理想の演技は、空のステージに歩いて登場し、山のようにカードを出現させた後に歩いて退場するというものです。またカードを床に捨てるというのは、タバコを床に捨てるのと同様、私は好きではありません。従ってカードの捨て場は必要ですが、最初からステージに大きな捨て場があるとフィニッシュのマンモスカードを予想させてしまうのも面白くありません。捨て場を見えにくいネットにするなどの工夫も考えましたが、ご存じのようにマンモスカードは結構重いので、その捨て場には耐えられるだけの強度が必要で、どうしても目立ちます。
結局マンモスカードは諦めて、その代わりに通常のジャンボカードより一回り大きなオリジナルサイズのジャンボカードを作成し、ジャンボカードでフィニッシュするという手順に変更した訳です。
しかし、フィニッシュがジャンボカードでは演技の最後の盛り上がりにやや不満が残り、どうしても「安易に妥協して良かったのか?」という問題意識から解放されませんでした。そのマンモスカード復活の決め手となったのは、2013年2月の「オールジャパンマジシャンズ フェスティバル in 名古屋 御園座」での自分自身の演技の不出来さからでした。今回はマンモスカード復活の経緯についてお話します。
御園座での不出来さは明らかにその時の状況に対する心理状態が原因でしたが、言い訳すべきではなく、結果としてミスがミスを呼んで人生で最悪の演技となった事は事実でした。このままで私のミリオンカード人生は終われないと、御園座(名古屋)からの帰りの新幹線の中で考えた事が心機一転マンモスカードの復活でした。そして、そのためには、マンモスカードの捨て場の課題解決が不可欠でした。
当初の私のマンモスカードは、片手のマンモスファンから反対の手で1枚のカードを抜き取るとそのカードがファンになるという現象で、それを左右交互に行うやり方でした。この場合、常にどちらか片方の手のファンを捨てるという現象なので、「捨て場にカードを捨てられる ⇒ マンモスカードだけ床に捨てるのは不自然」と考えた訳です。新幹線の中で考え続けた結果、「左右両手から連続してファンが出現する現象であれば、ひとつの捨て場には捨てられないので、そのまま床に散らしても違和感が無くなる」という事を新横浜駅の到着前に思い付きました。頭の中のシミュレーションでは実施可能で思わずガッツポーズをしてしまいました(笑)。
帰宅して早速試してみると、カードの重さが予想外の問題でしたが、現象そのものはほぼイメージ通りに可能でした。その後、使用するカードやネタに通じる部分、演じ方などはいろいろと改良しましたが、一番苦労したのが、マンモスカードをどこにセットするかでした。最初に書いたように、私の理想は何も無いステージに歩いて登場する事なので、最初からステージにマンモスカードをセットしたテーブルがあるのは、どうしても気に入りません。
あるプロの方から、「新聞の後ろにアピアリング・テーブルと一緒に隠し持って、新聞を読みながら登場し、新聞の影から出現させられないか?」とのアイデアは頂いたものの、かなり重たいカードをアピアリング・テーブルと一緒にずれないように持つのはちょっと無理と諦めていました。しかしその後「新聞の代わりに本にすれば良い」という事に気づきました。本の中にカードをセットし、本がアピアリング・テーブルになるという現象で、これなら演技可能です。本の後ろに捨て場のトップハットも保持できます。
構想はできたので、後はマンモスカードをセットできる本を作るだけですが、これが意外に大変でした。まずは、実際の本の中を切り抜いてそこにカードをセットするという方法を考え、神田周辺の古本屋めぐりをしました。しかしB4位の大きさのカードよりも少し大きいというサイズの本はなかなか見つからず、しかも大きい本は重量があり、とても簡単には持ち運べない事も判りました。
結局、厚紙を使って本?を自作する事にしました。東急ハンズに自作用の本の材料なども売られていたので、なんとか本らしく見える道具が完成しました。
何もないステージにカードマニピュレーションの本を読みながら下手から登場し、本の影からシルクハット、そして出現したテーブルの上にトップハットを置いて捨て場としてミリオンカードの演技を始め、最後は本から取り出したマンモスカードの両手ファンプロダクションで締めくくるという今の手順が完成しました。決して自慢する訳ではありませんが、還暦が近づく年齢になっても、まだまだ伸び代がある事を実感できたので、今後もこの勢いのまま、中年の星と言われる事を目指して頑張ろうと思います。(笑)