今回は、ファンプロダクションをより不思議に見せるための工夫について紹介します。以前に述べたように、私が目指すファンプロダクションは、「ファンが連続して出現する一連の現象」のではなく、「空の手からファンが出現するという現象が、何度も(これでもかと)繰り返される」というイメージです。そのためには、「まだファンプロダクションが続く」というような雰囲気がどこかに醸し出されてはダメで、如何に「毎回カードを完全に捨てたように見せるか」がポイントになります。
ファンプロダクションの回数が増えるほど効果がありますが、単調に回数を増やしてもダメで、個々のファンのプロダクションでちょっとした変化(工夫)が重要になっています。
バックパームを完成させてから捨てる
毎回毎回、ファンを捨てるタイミングでバックパームするのではなく、途中で一度、写真のようにカードのファンを保持した状態で残りをバックパームします。そして見えているカードを確実に全部捨てているところをしっかりと見せる事で全部捨てた事をさりげなくアピールできます。
ファンの裏を見せる
観客の意識の中にはバックパームがありますので、ちょっとファンの裏を見せる事で手の裏の改めになりますし、捨て方が変わったのでこれで最後という印象も与えられます。
ファンの裏を見せてから表に戻す時に残りのカードのバックパームを行い、1の方法との組み合わせるのも有効です。
間(ま)に変化を持たせる
ファンを捨てるタイミングに、少し変化を持たせる事も有効です。例えば、ファンを出現させる前にちょっと間を置いて観客を見てから、これが最後のファンという雰囲気で出現させます。その後、終わったというほっとした雰囲気で脱力感を醸し出しつつファンを捨てながら、一部をバックパームします。この場合、捨てた後で軽く両手を払う動作なども有効です。
演者が「これで最後・・・」という、ほっとした雰囲気を出すことがひとつのミスディレクションになり、その後のファンの出現のインパクトが増すという見せ方です。
以上のように、ファンプロダクションにちょっとした変化を付ける事で、毎回のファンの出現がより新鮮になります。ミリオンカードを不思議に見せるには、カードの出現よりもカードを捨てた(パームの)状態の方が重要で、気をつけるべきポイントは、カードを捨てた後の自然な脱力感です。手首や指に硬さがあるとその後のカードの出現が予想されてしまいます。ミリオンカードでは、「実際に何枚のカードが出現したか」よりも、「観客がもう空だろうと思った手からカードが出現する驚きが何回あったか」が重要です。大事な事は、物理的な枚数ではなく心理的な枚数です。
最後にひとつだけ付け加えると、布石や流れの大事さです。3~4回のファンプロダクションでは、「もう、これが最後・・」というアピールは弱いですが、ファンが7回8回となるとこのアピールが生きる事は容易に理解できると思います。要するに、一発で驚かせられるようなスーパーテクニックなどは存在せず、小さな工夫や技術の積み重ねが重要です。個人的には、落語の笑いに通じるものを感じます。
ファンプロダクションを覚えてから40年以上になりますが、今でも非常に奥が深い技法と思います。次回はちょっとマニアックなこだわりの見せ方を紹介します。