古川令

顔(表情)について

 学生時代にコーチに教わったステージ・マジックの5大要素(服装、照明、音楽、顔、技術)で、 服装、照明、音楽と私の考えを紹介してきましたので、今回は“顔”の順番です。 美男か美女でスタイルが良い方が良いのは確かですが、親からもらった顔はどうしようもありません。 ここでは、私のこだわりであって練習によって変えられる“表情”について書いてみたいと思います。

 実は私は大変な「あがり症」で、大学1年の初舞台では手が震えて困ったものでした。手が震えている事に気づくと、震えが収まるどころか、さらに震えが大きくなる事などを経験された方もいらっしゃると思います。
 ステージの後は少々落ち込んでいたのですが“ちょっと引きつっていたけど、 君の笑った時の顔は良かったよ”というある先輩のひと言に少し救われました。 その事が「表情」を考えるきっかけになり、それ以来、人の演技を見るときにはテクニックだけでなく演技の表情に注目するようになりました。
 その結果、技術的には同じレベルのテクニックのマジックでも、表情ひとつで演技の見え方が大きく異なる事に気づき、 それからは密かに“笑い方”の練習でした。最初に顔のマッサージ、次に鏡の前で笑う、練習しながら笑う・・・。 歯を出して無理に笑おうとすると不自然になり、ポイントは自分自身が楽しいと感じて自然な表情を作る事だと気づいた次第です。 リラックスした表情は、テクニックをオブラートのように包んでくれる最大のミスディレクションであるというのが私の持論です。


 写真は、生まれて初めてステージ・マジックのコンテストに出場したIBMの予選の写真です。自分で言うのもなんですが、緊張の中でも割と自然な表情が出ていたと思います。
 多くのアマチュアマジシャン(特に学生さん)はテクニックのところでドヤ顔や、歌舞伎まがいの変な見栄で、ご本人はかっこいいと思っていると思いますが、私は大きな損をしていると感じます。
 スライハンドマジックにおいても、如何にお客さんに楽しんでもらうかが重要と思います。難しいテクニックを自慢げに見せるのではなく、そのテクニックを使った現象がお客さんに楽しんでもらえるかどうかが肝要と思います。そのために重要な要素が、リラックスした表情だと思います。

 最後に、一般的に舞台化粧が大事と考えられていますが、私は一切化粧をしません。決して舞台化粧を否定するつもりはないのですが、化粧で「目鼻立ちをはっきりさせる事」と、自分が求める「表情の柔らかさ」がなんとなくフィットしないというだけです。老化で顔がくすんだら、舞台化粧も考えないといけないとは思いますが・・・(笑)

 次回からは、5番目の要素であるテクニックや手順の話に戻ります。

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