バーディーコヤマ

マジックを演じるあなたへ

第1章 はじめに

 皆さん、「名取」という言葉をご存じでしょうか?「あの方は藤間流の名取になられた」といえば、「日本舞踊の流派の1つ、藤間流で一定の技能を習得し、師匠から芸名を持つことを許された」という意味です。
落語の世界では芸の習熟に応じて、「前座見習い」、「前座」、「二つ目」、「真打」という階級があります。茶道や華道のような伝統文化の世界では、習得技術に応じて免状が発行されるのがほとんどです。さらに囲碁、将棋やたいていの武道でも、段級位制度があります。講道館柔道なら白帯の無級からまず水色帯の7級に昇給します。茶色帯の1級に達して初めて、黒帯の初段を目指すことになります。

 このような制度は「人を評価する」あるいは「人から評価される」場合の指標になるだけでなく、本人がその道を究めていく上でのよい道標になります。
マジックの世界でも、このような制度があれば、マジックに取り組まれる方々にとって、勉強がしやすくなるでしょうし、励みにもなるでしょう。どうしたら今の階段から次の階段へとステップ・アップできるのかが明確になるからです。 “残念ながらこのようなシステムはマジックの世界にありません。”

 ここに述べていることは、私の考え方をまとめたものであって、古今東西の知識を網羅したものではありません。スマートホンでも、断片的な「情報」であればすぐに大量に得られる時代に、1人の手品師が生涯をかけて到達した考え方に、どれほどの意味があるものかと訝しむ方もいるかも分かりません。 しかし、それは私の頭の中だけで出来上がったものではありません。私の先生や先輩や仲間など、多くの方々から得た考え方が統合されてでき上がったものです。もちろん私の先生や先輩や仲間にも、先生や先輩や仲間があります。

 マジシャンの長い歴史の中で多くのマジシャンが受け継ぎ、伝え合い、共有し合うことで形成された「考え方」、いわば繰り返し、繰り返し蒸留した末に得られる何かのエキスと同じようにしてでき上がった「考え方」なのです。つまり、それは私と縁があったマジシャンたちの長大なネットワークの中で、最終的に私が到達した、私の考え方を体系的にまとめたものなのです。

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