坂本圭史

情報の速さと効果について

 九州筑後川に東洋一の昇開橋が掛かっている。船が通る時、橋桁が上がり、列車が通る時、橋桁が下がる・・と言うもので、父・坂本種芳が設計したもの。今、列車は通っていないが、遊歩道として観光名所になっており、現在でも1日8回、橋桁は上下している。
 橋は国の重要文化財に指定され、また日本機械学会により、新幹線0系客車、航空機のYS11などと共に“機械遺産”の認定も受け、歴史的近代産業遺産として文化的、技術的に評価され、永久保存されている。

 父の本業はエンジニアであったが、趣味のマジックから得られた知恵を、仕事にも生かしていた面が多々見られる。「新しいトリックで人を驚かすのが好きでね!そんな心理がいつもはたらいている。」と良く語っていた。
その橋は、筑後川に掛かる長さ約507メートル、橋の中央部分の橋桁(長さ24m、重さ48トン)が、23メートルの高さまで約1分間の速さで上下させる事が出来る。それは、正にイリュージョン“人体浮揚術”の仕掛けと力学的に共通している。同じ昇開橋でも築地の勝鬨橋とは上げるための構造が全く違い、エネルギーが殆んど掛からない。

私は過般、このマジックラビリンスに次のような事を書いた。

私がトランプを集める様になってから20年程が経過した、 集めたトランプは凡そ1500種。保管に当っては国別、航空会社・鉄道別、城・宮殿、美術館・劇場・ホテル・有名人・コマーシャルなど様々な分類をしているが、その中に「橋」と言う分類がある。ロンドンの「タワー ブリッジ」、ニューヨークの「ブルックリン橋」、ドイツの「カール・デオドール橋」、日本では「お江戸日本橋」などである。 亡父が作った九州筑後川の昇開橋は、美しい周辺の風景と共に、何枚ものテレフォンカードが作られている。しかし「同じカードでもプレイイングカード(トランプ)はない。マジックをこの上もなく愛していた父だけに残念である・・・」


と。2011年2月この昇開橋はリニューアルされ、そのオープンの記念式典が行なわれ、財団より招かれて出席した。受付でいただいた式典の記念品は何と「昇開橋がデザインされたトランプ」であった

昇開橋トランプ フェイス・デザイン
昇開橋トランプ フェイス・デザイン

 しかもそのケースの側面には 『坂本種芳:可動装置の原理を考案した鉄道省技手。世界的な賞“スフィンク賞”を受賞するなどアマチュア手品師としても有名です。坂本氏の功績がきらめく筑後川昇開橋がデザインされたトランプでマジックはいかが!』 と記載されている。

昇開橋トランプ
昇開橋トランプ
ケース側面のコメント
ケース側面のコメント

 昇開橋に強い関心を持っている地元中学校の先生が財団に提案して作る様になった・・・との事であった。九州新幹線全通を機会に地元PRの為に販売されるとも聞いた。 その様な事も知らずに式典に参加した私は「トランプを使ったマジックを演じて欲しい」と突然の要望を受け、演じる羽目になったが、亡父の趣味・マジックによる強い印象を地元の皆さんに与え、ご縁を少しでも深める事が出来れば・・・と思い、喜んでご覧に入れた。

 思わぬ事から発展した想いが、IT時代の情報の速さで人の心を動かしてくれた事に感謝したい。

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