さて、前回は「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の基本的な構造と手順を述べました。
その中で、シェルとダブル・フェイスを物理的に合体させるのではなくて、
ダブル・フェイスの中に磁石を仕込み、シェルのほうに鉄のシム(芯)を貼るギャフ・コインの話をしました。
それが、今回扱う「ニュー・マグネティック・カッパー・アンド・シルバー」です。
このセット商品がいまでも売られているかどうかは確認してありますので入手は可能です。
そうでなくても、コイン工房等で販売されている個々のギャフ・コインを個別に購入して構成することも可能です。
そこで、まず、コインの構成を述べます<写真1>。
今度もシェル以外のコインはシェルが被さるように口径をやや小さく削ってあります。このうち、①~③は、ロックが物理的か磁石かの違いだけで、コインそのものの構成はまったく同じですから、「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」で行なった銀貨と銅貨の交換現象はそのままこのセットでも行えます。「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」のセットにはなかったコインは磁石にくっつくように鉄の芯を入れた④の銅貨です。この1枚が加わることによって、新たな現象をいくつか見せることができます。
これは、ジョンソン・プロダクツの解説に書いてあるものです。
絵や写真は1枚もありませんので、昔の日本人のように実演を観ないでアメリカから通販で買った人の中には意味のわからなかった人がいた可能性があります。
1枚のカードの下で、銀貨が銅貨に、銅貨が銀貨に変化します。
やってみると自分が思っていたよりも現象が鮮やかです。観客も驚きます。
最後に、マジシャンの両手が完全に空いてしまって、両手に何も残らないところがすっきり見えます。後半のダブル・フェイスにシェルを被せるところは、別にマグネットである必要はありませんが、マグネットのほうが、動きが柔らかくて自然に見えます。前半のカードを持ち上げて銀貨が銅貨になるところは、マグネットでなければできませんので、そこがミソです。
透明なカップに入れた銅貨と銀貨のうち、銅貨だけがカップを貫通します。
この現象は、基本的に、カップの底でなくても、何か薄いもの(たとえば不透明なシルク)を挟んで、下に鉄の芯の入った銅貨、上にダブル・フェイスの銅貨面を上にした状態にして載せれば、手を離しても下側の銅貨は落ちないので、シルクを2枚の銅貨がサンドイッチした状態になります。したがって、上側のダブル・フェイスの上に銀貨のシェルを重ねて載せて、シェルを完全に被せれば磁石で固定されて、上側の銅貨と銀貨は1枚の銀貨になります。同時に下側の銅貨を落下させれば、銅貨だけがシルクを通過して下に落ちた現象になります。
また、上記の透明なカップでは、口側に置いたシェルとダブル・フェイスが重なってロックされて底に落ちたときに、一回転してシェルの側が下になっていると、シェルの分の厚みだけダブル・フェイスの中の磁石が遠くなって磁力が弱く、カップの底の外側にある銅貨がくっつかないことがあります。その場合は、無理にカップの中でロックされたコインをさらに回転させるようなことはしないで、鉄の芯入りの銅貨をそのままパームしておいて、カップの底を左手で持って、カップを揺らすときに左手から落下させます。
「ニュー・マグネテイック・カッパー・アンド・シルバー」は、単純に物理的なロックが磁石のロックになっただけでなく、鉄の芯の入った銅貨がセットになっているところがミソです。そこで、その利点を生かした手順を上に2つ紹介しましたが、すでに述べたように、この鉄の芯入りの銅貨を使わなくても「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の手順は完全に行なうことが可能です。
しかし、もし、磁石のロックがそれほど強くなければ、「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の最大の弱点であった、最初に銀貨と銅貨の両面を観客に見せることができない、という課題を克服することができます。それには、この弱い磁石のロックを外すために鉄芯入りの銅貨が必要なのです。基本的な手順は同じなので、最初のところだけ簡単に書きます。右手にロックされた両面銀貨を指先に持ちます。左手は、鉄芯の入った銅貨を指先に持ちます。この段階で、両手の指先でコインを回転させて、両方のコインの両面を見せます。確かに、右手は銀貨、左手は銅貨です。見せたら、右手の銀貨をシェルが上になるようにして、右手の親指と人差し指とでコインのエッジを持ちます<写真12>。
このコインに下から左手の銅貨を当てます。すると、磁石ロックが外れて、シェルの中のダブル・フェイスが左手の銅貨にくっついて来ますから、ただちに2枚の銅貨を重ねて、さらにその上に銀貨のシェルを少し重ねて左手人差し指と親指で挟んで持って示します<写真13>。銅貨が2枚あることは、他の指で隠れて厚みが見えません。
この状態で、右手の親指を上から銀貨(シェル)に当て、他の指を下から銅貨の下側になっている鉄芯入りコインに当てて、上下のこの2枚だけを右方向に引っ張ると、シェルの中に銅貨が入って、これで、「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の最初の形になります<写真14>。したがって、ここから前回の「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の手順に入ることができます。しかも、演技の最後に再び銅貨と銀貨の両面を見せることができますから、演技の最初と最後にコインをすべて改めたことになります。
商品として販売されている「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の仕様は、磁力の強いものから弱いものまでいろいろです。
したがって、すでに所有している磁石ロックのコインがセット内の鉄芯入り銅貨では簡単に外れないものもあります。
その場合は、シェルを少し緩めるのも方法ですが、銅貨を鉄芯入りのものからやはり内部に磁石を装着したものに替えると簡単です。
こうすれば磁力が強いですから、ダブル・フェイスは比較的簡単にシェルから外れます。
この磁石入り銅貨はセットには含まれていないので別途購入しなければなりません。
幸い、磁石を装着した銅貨は、国内外のディーラーで容易に入手が可能です。
ただし、言うまでもないことですが、単体で売っている磁石内蔵銅貨は、口径が通常の銅貨のままですから、
そのままでは、セットのシェルに入りませんので、周囲を少し削らねばなりません。
ヤスリを使って上手に削るのはけっこうたいへんな作業です。
すでに書いたように、テーブル・ホッピングで演じている職業奇術師は、バンリングを使ってシェルを外す余裕などありませんから、
いきおい、磁石ロックの「ニュー・マグネティック・カッパー・アンド・シルバー」を使うことになります。
実際に練習してみますと、テーブル・ホッピングの移動中に磁石ロックのシェルを外すのもそんなに簡単ではないことがわかります。
そこで、もし、この手品をどうしても自分のレパトァに入れたいのなら、いずれにしても磁石でロックされたコインを客に改めさせないという前提で、
むしろ、口径を削ったコインではなくて、通常のダブル・フェイス・コインとエキスパンデッィド・シェルを使うやり方をお勧めします。
磁石でなくてもそれなりにロックされていますし、口径を削ってないコインのほうが扱いやすいです。