麦谷眞里

シリーズ開始にあたって

 私は、自分の経歴を述べるとき、よく役人生活を引き合いに出して、国に奉職したのは僅か35年ですが、手品は、もう55年になります、と言います。
趣味は、と訊かれると、機械式時計と答え、実際、私は日本時計学会の会員でもあります。
厳密に言うと、手品だけで生活しているわけではありませんので、職業奇術師の方から見ると、 手品も趣味の一つでしょう、と言われるかもしれませんが、私の感覚からすると、手品も仕事のような気がしています。
手品の蔵書は1万冊を超え、道具は、自宅に収まりきらず、マンションの部屋や倉庫を借りて収納しています。
アメリカの手品オークションに行くと、オークション会社の人はもちろん、知り合いがけっこういて、今日はあんたの好きなものがあるよ、などと言われます。
いまや国際的な団体に所属しているのは手品だけですし、国際的な大会に出かけていくのも手品だけになりました。
そうして、この55年間に培った道具や経験のことを少し書いてみようと思っています。