The Magician of the Yearの本年度受賞者としてラビリンスでもレギュラー寄稿いただいている松山光伸氏がSpecial Fellowshipを受賞されました。これはThe Magic Castleの名で知られている有名なThe Academy of Magical Artsが選考するもので2019年の5月4日に行われたAward Showで各賞の発表と授賞式がありました。今回の受賞を機にお話を伺いました。
(東京マジック):
令和に改元して早々にビッグなニュースが飛び込んできました。今回の受賞おめでとうございます。
(松山):
有難うございます。
Q.
最初その報を聞かれた時はどのような印象を受けましたか。なにか予感のようなものはあったのでしょうか。
A.
正直とても驚きました。全く唐突だったからです。Magician of the Yearの各賞は前年にMagic Castleに出演した人の中から選ばれるのがルールと聞いていましたし、ましてや私はMagic Castleの会員(magician member)でもありませんでしたから名前が取り沙汰されること自体あり得ないと思っていました。
Q.
でも実際には受賞対象になったわけですよね。
A.
私の理解に一部誤解があったようで、前年の出演実績などが前提になるのはClose-upやStageやParlorなどのMagician of the Yearであって、Fellowshipにはそのような条件が設けられていないようなのです。
Q.
受賞されたのはSpecial Fellowshipということですが、日本人ではいままで石田天海、高木重朗、小野坂東の三氏だけが受けられていますから4人目ということですね。素晴らしいことです。
A.
とても名誉なことです。ただ、挙げられた3人の方と同列に考えることなどできません。Academy of Magical ArtsのAwardsが創設されたのは1968年でその時はいまのような多彩な種類の賞があったわけではありません。例えば天海さんが受賞した1970年というのは帰国後10年以上経ってからのことで当時の授賞式のレポートを読むと天海さんが受けた賞はいまでいうところのLifetime Achievement Fellowshipという性格のものでした。横並びにされると少し先人に申し訳ない気がします。
Q.
松山さんは色々な活動をされていますが今回の賞の趣旨について何か話はあったのですか。
A.
「日本の手品史の詳細を調査した長年の研究活動に対しての賞」とのことでした。それを広く海外に伝えてきたことが評価されたようです。
Q.
マジック史に力を入れるようになったのは何か意図があったのですか。
A.
早くから奇術雑誌への寄稿を薦められ色々と書く機会に恵まれましたが誰も手を付けていないものとして歴史研究という分野に宝の山があると気づき、そこに自分の役割があると確信するようになりました。歴史調査には時間や根気が必要で、加えてパフォーマンスとは違って注目を集めにくい領域ですから取り残されていた分野とも言えますが、探求しだすと夢中になってしまいます。
Q.
Award Showはどんな印象でしたか。Banquet 形式の授賞式だったのでしょうか。
A.
実は出席していないのですよ。行きたい気持ちは山々でしたが実は色々な事情で出席が難しかったためお許しを得て欠席しました。滅多にない機会なので残念なことをしましたが、幸いなことに歴史的に貴重なマジック用具や古い自動人形の復元などで世界的に名高いジョン・ゴーン(John Gaughan)さんがプレゼンターとして紹介してくれたと聞いています。
Q.
次なる目標は何かありますか。
A.
特にありません。気の向くままに好きなことをこれからも探求し続けようと思っています。
Q.
あとに続く人へのアドバイスをお願いします。
A.
マジックに限らずどの分野でも世代交代しながら発展していくのが世のならいです。ところが年を重ねても若い人に負けることのない研鑽の仕方というのがあります。それは蓄積です。ネタの知識でもノウハウでも歴史の事実データでも同じで、これは経験や勉強を積み重ねてきた人の方に分があります。とはいえ蓄積だけではダメで、それらを常に最新状態にメンテナンスしておくことが肝心です。いつもGet Readyの心構えがあれば思いがけないチャンスが訪れた時にすぐに受けて立つことができることにもなります。私の場合海外の雑誌から連載依頼があったときに迷わず、引き受けることができたのが今回の賞につながったものと思っています。
Q.
ラビリンスも引き続きよろしくお願いします。
A.
ラビリンスの場はとても貴重なので、こちらこそよろしくお願いします。