氣賀康夫

消える美女

 <解説> このパズルは図形消滅パズルの典型的なものですが、図形が魅力的な美女として画かれていて、しかもその絵が驚くほど写実的です。もしかすると、複数の美女のモデルにお願いして、上手にポーズを取ってもらうと、写真でも実現出来そうなデザインです。筆者は、これほど見事に画かれた消滅パズルは他に見たことがありません。
厳密にいうとこれは純粋な筆者の作品ではありません。最初にその原作を見たのは朝日新聞社発行「不思議の博物館」図録P94でした。これはイギリスのMad Hatter Novelty Co.が発表したものですが、筆者はその後、その作者であるカナダ人のJohn Henley氏と文通し、オリジナルの図案を譲ってもらい、それを分析、改良して、最終的に理想的な改良デザインを完成しました。ここではその改良作品をご紹介します。興味のある方は、「不思議の博物館」を参照し、原作と比べてみてください。そうすると、この作品の完成度が高いことがわかると思います。

<用具> 横長の絵を三片に切断してあるものです。そのデザインを写真1に示します。 このデザインでは、上の切片の位置を入れ換えると、美女の数が15から14にものの見事に変化します。演出の都合で、3枚の切片の裏に次の文を書いておきましょう。
① 小さい切片  「綺麗どころは、」
② 中間の切片  「何人いましたか?」
③ 大きい切片  「確認しましょう!」

写真1
写真1

切片の裏
切片の裏

<演出> それでは、これを用いる面白い演出をご紹介しましょう。筆者がまだ会社の現役で法人営業に携わっていたとき、よく顧客企業の幹部の方々と宴席を持つことがありました。そのとき、以下の演出でしばしばこれをご覧に入れて喜んで頂きました。
1. 宴会が終わりに近づくと、ご飯と香の物が出て、そのあと、水菓子などがサービスされます。その頃を見計らって、テーブルの主賓の前を少し空けて、「面白いものをご覧にいれましょう。」と言いながらこのパズルを並べます。並べ方は一番小さい切片が左上になるように配置します。すると、美女が15人になります。なお、向きは、お客様から見やすい方向に置くのが理想です。
2. ここで、「魅力的な女性の数を数えておきましょう。」と提案します。そして、人数を数えるのですが、最初に、宴席でお酌のサービスをしてくれている仲居さん(芸者さんコンパニオンさんの場合もあるでしょう。)から数え始めます。仮にお酌している女性が三人いたと仮定しましょう。この場合、「一人、二人、三人…」までは、実際の仲居さんを数えます。そして、さらに続けて、パズルの絵の女性を指差しながら「四人、五人…」と数えて行きます。そうすると、最後は、3+15で「…18人」となるでしょう。(写真2)

写真2
写真2

3. ここで、まず小さい切片、次に中サイズの切片、最後に大きな切片の順で、切片を裏返しします。そして、その裏に書かれた文章を読み、女性が合計18人であったことを再度確認します。そうしたら、3枚の切片を再び表向きにして整えるのですが、このときは小さい切片の位置が右上になるように配置します。そして、ただちに「それでは、もう一度、人数を確認いたしましょう。」と提案します。お客様が最初に仲居さんを3人まで数え、続けてパズルの美女を数えると、数え終わりは、3+14で、17人となるでしょう。(写真3)

写真3
写真3

4. そこで、「17人ですか?先ほどは確かに18人だったのですが、不思議ですね、一人見えなくなりました?どうなったのでしょうか?アッ!わかりました。消えた一人はこの絵の中のお一人ではなく、お酌をしていた綺麗どころのお一人だったようです。彼女は、今廊下の突き辺りの四畳半のお部屋で、お湯を沸かしながらお客様のお越しをお待ちしているそうです。私どもはこれで失礼いたしますが、お客様は、そちらの席にどうぞお立ち寄りください。」とお話します。このジョークは受けること請けあいです。
5. 最後は、このパズルの現物を主賓にプレゼントして、宴席をお開きにします。

<後記> 原作とこの改良作品との違いですが、工夫した個所は以下のとおりです。
1. 原図には、パズルと関係のない余計なものが多数画かれている。それらはミスディレクションの目的を果しているものでない限り、すべて除去することにした。
2. この種のパズルでは、図形の一番上の部分(頭の先)と一番下の部分(足)が最も怪しく見える宿命にある。原作では、一番左にそのような問題の図柄が画かれていた。(足の処理)そこで、デザインの切断位置を工夫し、怪しげな図柄が左右の端や、切れ目の個所に来ないように配置換えを行った。
3. この並べ替えで、右から二人目と三人目の間がやや空いてしまうことになったので、スペースのバランスを考えて、その位置に、ビーチボールを1個新に配置した。
4. 原案には、一番左にスカートの女性がおり、そのスカートに人の顔が画かれていた。実は、この顔がこのパズルの重要な種になっていたのであるが、顔が画かれているのはどう考えても不自然である。そこで改良案では、顔のデザインを避けるデザインの変更を行った。
5. その他、何ヶ所かに、絵が自然に見えるために図案の微修正をほどこした。

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