氣賀康夫

楽しい図形消滅パズル

 東京マジックさんから、また面白いパズルがあれば記事にしたいとのお誘いがあり、私が興味を持っている図形消滅パズルについて材料提供することにいたします。
パズルと奇術とは、互いに兄弟分と言えるくらい近い間柄です。パズルを単なる知的遊びとして捕らえることもできますが、演出を工夫するとそれがそのまま奇術になることもしばしばあります。今回はそのあたりの研究もご紹介したいと考えております。

筆者
筆者

さて、図形消滅パズルというのは紙の上に画かれた図形があり、その紙を幾つかの切片に切り離して並べ替えると、図形に著しい変化が生ずるようなパズルです。
消滅パズルは、大別すると図形の数が減ってしまう図形数の減少パズルと、図形の面積が変わってしまう面積パズルとの二種類があることがわかります。
なお、「消滅パズル」を時間的に逆の順序で見せれば、それはそのまま「出現パズル」になる理屈です。
百聞は一見にしかずですから、ここに、消滅パズルを三つご紹介しましょう。
まず一つは、パズル王サム・ロイドの1896年の作品「消える中国人」です。これは図形消滅パズルの原点とされています。図形は円形に作られていて、この円の中側と外側とを回転させてずらすと、画かれた中国人の絵の数が変化するという仕組みになっています。なお、この円形パズルは茶筒のような円筒形の外周に画く方法も考えられます。作図された円筒形の外周に画かれたものを切りはなしてそれを広げて平面にした形式のものがその後は主流になりました。

第1図  消える中国人(出典:朝日新聞社「遊びの博物館」P93)
第1図  消える中国人(出典:朝日新聞社「遊びの博物館」P93)

次に紹介するデザインは柴田直光著「奇術種明かし」に紹介されている「消える短冊」です。この本の出版は1951年ですが、そこにTAMC緒方会長が二十数年前にヨーロッパで手に入れたものを参考にしたと書かれていますから、原図はだいたい1920年代頃に手にいれたものだということになるでしょう。短冊は絵柄としては最も単純なものですが、その後、これを動物や人物にするデザインが沢山創作されるようになりました。

第2図 消える短冊 (出典:柴田直光著「奇術種あかし」P146)
第2図 消える短冊 (出典:柴田直光著「奇術種あかし」P146)

面積増減パズルの方の例としては、筆者が高く評価している奇術研究家近藤博氏の作品「太陽とひまわり」を紹介させていただくことにいたしましょう。このデザインでは、並べ替えによって、ちょうど太陽の絵の画かれた正方形の面積が増減するので、太陽を含めても、太陽を除いても、全体が長方形におさまるように構成されています。そのとき、太陽がないと、ひまわりの花はそっぽを向いているのですが、太陽があるとひまわりの花が太陽の方を向くというユーモラスな設計になっています。筆者はこのようなアイディアを高く評価します。

第3図 太陽とひまわり (出典:坂根巌夫著「新・遊びの博物誌」P47)
第3図 太陽とひまわり (出典:坂根巌夫著「新・遊びの博物誌」P47)

ところで、筆者について、パズルや奇術の創作が得意らしいと思っている方が多いのですが、実は、何か新しいものを創作して他人に見せようという考え方をしたことは一度もありません。では、どういうとき、創作が行われるかというと、既存のものを見ていて、それを改良する必要を感じたり、あるいはそれをヒントにして、質をさらに高めた作品ができるはずだとひらめいたとき、初めて、創作の作業が始まります。
奇術でも「他人の作品では面白くないから自分流に直そう」などという考え方はそもそも邪道です。これまで、そのような考えを持ったことはありません。だだ、改良が必要だと感ずると、そこから研究が始まることになります。
この図形消滅パズルについては、単に図柄のデザインが違うだけという作品なら、幾らでも作図することが可能です。でも、それでは何も面白くありません。筆者がこれまでに創作したこの種のパズルは、どれも、「この点で他に例がない!」という何らかなの特徴を持っています。そういう作品しか創作する意味がないと考えているからです。ところが、過去50年の間にこのようにして創作された作品だけでも、その数が十数種にもなってしまいました。この数は決して当初から目標としたものではありません。あくまでもたまたま創作した結果がそうなったに過ぎません。上記のような創作動機が基本ですから、これから将来はひとつも創作しないかもしれませんし、また逆に幾つも作品を作ることになる可能性も否定できません。
次回から、筆者の作品を一つずつ、そのデザイン、開発の裏話、面白い演出法などについてご紹介してまいりたいと考えております。ぜひ、ご期待ください。

                  第2回