マジックを原書で読んでいて感じる事ですが、その言葉(単語)を訳す時に、最適の日本語が思い付かなくて、いつも歯痒い思いをしています。
そういえば、私の高校時代に、英語の先生が、「英語を理解するには、多くの日本語を知らなくてはいけない、つまり、国語を良く勉強する事です」と言っていたのを思い出します。
確かに、日本語は、言い廻しがたくさんあって、しかも、それぞれニュアンスが違っているので、どれを当て嵌めて良いか難しいのです。
しかも、その人が、どれだけ日本語の単語と語意を知っているかに因ります。「ああ、もっと国語を良く勉強していたならばなあ」と思うわけです。
そこで、次のトリック、“フレキシブル・ミラクル・スプレッド”の紹介ですが、それをそのまま“融通のきく”または、“臨機応変に処理できる奇跡のスプレッド”と訳すと、何て堅苦しい日本語訳なんだ!と思います。
しかし、これを“いろいろ応用できる不思議なスプレッド”と訳すと、このトリックがどんなものかが、すぐに予想できます。本当に日本語は難しい。
では、その、応用のきく不思議なスプレッドをどうぞ!
次の動作は、2通りの方法があり、好きな方を選んで下さい。
4-1. フリーになった左手の指で、デックを揃える動作でボトムカード(相手カード)を、2~3cm位、右側へ、サイドジョッグして、次に、左手の親指と他の指で、ボトムから2枚目のカードを左側へ引き出します。
もちろん、この動作は、相手には、見えていません。
右手は、そのデックをテーブルへ置いて、先ほど左側へ引き出したカードの左サイドの上に、左手の親指を押し付けます。
次に右手は、デックのボトムに相手カードをサイドジョッグしたまま<写真1・写真2>、リボンスプレッドします。
そして、左手の指は、スプレッドの左端を持ち上げて、左手の指先で、スプレッドの下の相手カードを持ち上げます。
4-2. 他の方法として、相手カードをボトムに置いたまま、サイドジョッグをしないで、右手でデックを単にリボンスプレッドします。
次に、左手でスプレッドの左端を持ち上げますが、その時に左手の親指と他の指は、左端(ボトム)の2枚のカードだけを握ります。
つまり、左手の親指は、トップから2枚目のカードのバックについていて、左手の他の指は、ボトムカードをスプレッドの下でサイドジョッグするために、右方向へ押しやります。
すると、左手の親指は2枚目のカードを左方向へ引く形になり、そのカードがスプレッドの一番左端のカードになります。
もちろん、その下には、相手カードが右方向へ少しサイドジョッグして隠れています。
この段階で、左手の指先は、スプレッドの下で、すでにボトムカード(相手カード)の左サイドにタッチしています。
上記の“4-1”・“4-2”のどちらの場合も、左手の指先は、スプレッドの下で、相手カードの左サイドの縁にタッチしています。
左手は、その指先がスプレッドの下で相手カードの左サイドの縁にタッチしています。
実は、このカードは、スプレッドの下に置いてあった相手カードです。私は、ここのテクニックが非常に気に入っています。
マーローは、フェイスアップカードをスプレッドの中に差し込ませる代りに、コインをスプレッドの上に落とさせたり、他に、ペン、ナイフ、ミニチュア・カーなどでもこのトリックを演じています。
このミニ・カーの時は、相手に、スプレッド上にミニ・カーを走らせて、止まった所でカードを分けているようです。
つまり、置く物は何であろうと、右手は、その置物の右側のカード全てを取り去って、再びその置物を押さえます。
次は、左手が相手カードと共に、右方向へ動いてカードを集めていき、その置物と相手カードを残して、他のカードを左方向へ取り去ります。
置物の下に相手カードがあります。
このトリックのオリジナル・ルーティーンでは、リボンスプレッドを右方向へ分けませんでした。
オリジナルのこのルーティーンは、全体に“流れ”と“不思議さ”が感じられません。しかし、“フレキシブル”の方は、マーローが再改良しているのが良く分かります。
"Thirty Five Years Later" p.40~41.