平川一彦

私とエド・マーロー
第15回

フレキシブル・ミラクル・スプレッド

 マジックを原書で読んでいて感じる事ですが、その言葉(単語)を訳す時に、最適の日本語が思い付かなくて、いつも歯痒い思いをしています。

 そういえば、私の高校時代に、英語の先生が、「英語を理解するには、多くの日本語を知らなくてはいけない、つまり、国語を良く勉強する事です」と言っていたのを思い出します。

 確かに、日本語は、言い廻しがたくさんあって、しかも、それぞれニュアンスが違っているので、どれを当て嵌めて良いか難しいのです。

 しかも、その人が、どれだけ日本語の単語と語意を知っているかに因ります。「ああ、もっと国語を良く勉強していたならばなあ」と思うわけです。

 そこで、次のトリック、“フレキシブル・ミラクル・スプレッド”の紹介ですが、それをそのまま“融通のきく”または、“臨機応変に処理できる奇跡のスプレッド”と訳すと、何て堅苦しい日本語訳なんだ!と思います。

 しかし、これを“いろいろ応用できる不思議なスプレッド”と訳すと、このトリックがどんなものかが、すぐに予想できます。本当に日本語は難しい。

 では、その、応用のきく不思議なスプレッドをどうぞ!

  1. パフォーマーは、両手の間にデックをスプレッドして、相手に1枚のカードを抜かせて覚えてもらいます。
  2. それを、スプレッドの好きな所に返してもらい、知っているテクニックでそのカードをデックのボトムにコントロールします。
  3. 右手は、左手に持っているデックの両エンドを右斜め上からエンドグリップで握ります。

次の動作は、2通りの方法があり、好きな方を選んで下さい。

    4-1. フリーになった左手の指で、デックを揃える動作でボトムカード(相手カード)を、2~3cm位、右側へ、サイドジョッグして、次に、左手の親指と他の指で、ボトムから2枚目のカードを左側へ引き出します。

    もちろん、この動作は、相手には、見えていません。

    右手は、そのデックをテーブルへ置いて、先ほど左側へ引き出したカードの左サイドの上に、左手の親指を押し付けます。

    次に右手は、デックのボトムに相手カードをサイドジョッグしたまま<写真1・写真2>、リボンスプレッドします。

写真1
写真1
写真2
写真2

そして、左手の指は、スプレッドの左端を持ち上げて、左手の指先で、スプレッドの下の相手カードを持ち上げます。

    4-2. 他の方法として、相手カードをボトムに置いたまま、サイドジョッグをしないで、右手でデックを単にリボンスプレッドします。

    次に、左手でスプレッドの左端を持ち上げますが、その時に左手の親指と他の指は、左端(ボトム)の2枚のカードだけを握ります。

    つまり、左手の親指は、トップから2枚目のカードのバックについていて、左手の他の指は、ボトムカードをスプレッドの下でサイドジョッグするために、右方向へ押しやります。

    すると、左手の親指は2枚目のカードを左方向へ引く形になり、そのカードがスプレッドの一番左端のカードになります。

    もちろん、その下には、相手カードが右方向へ少しサイドジョッグして隠れています。

    この段階で、左手の指先は、スプレッドの下で、すでにボトムカード(相手カード)の左サイドにタッチしています。

上記の“4-1”・“4-2”のどちらの場合も、左手の指先は、スプレッドの下で、相手カードの左サイドの縁にタッチしています。

  1. 今、テーブルには、デックがリボンスプレッドしてあり、そして、左手は、スプレッドの左端を握っています。
    パフォーマーは、右手でスプレッドの右端(トップ)のカードを取り、それを相手に渡して、それを、フェイスアップでフェイスダウンのスプレッドの好きな所に差し込むように言います。
  2. 差し込まれたカードは、スプレッドから突き出ていても、完全に中に入っていてもどちらでもかまいません。
    ここでは、フェイスアップカードが全て、スプレッドの中に入っているとします<写真3>
写真3
写真3

左手は、その指先がスプレッドの下で相手カードの左サイドの縁にタッチしています。

  1. 右手は、差し込まれたフェイスアップカードから右側のカード全てを右方向へ取り去って、テーブルへおきます<写真4・写真5>
写真4
写真4
写真5
写真5
  1. 次に、右手の人差し指をフェイスアップカードの中央に付けます。そして、左手は、右方向へ移動していきながらカードを集めますが、その時に、左手の指先で、スプレッドの下の相手カードも右方向へ押していき、右手で押さえているフェイスアップカードの下へ深く入れます<写真6・写真7>
写真6
写真6
写真7
写真7
  1. すると、右手で押さえているフェイスアップカードは、その下(左側)のカードを、ほとんどカバーしている状態になります。


  2. 左手の親指は、フェイスアップカードの次のカードのトップへ付いています。
  1. 次に、左手は、右手の人差指で押さえているフェイスアップカードの下に相手カードを残して、他の全てのカードをサッと左方向へ取り去ります。右手は動かしません。
    すると、<写真8>の状態になり、まるで、フェイスアップカードと、次のカードを残したかのように錯覚します。
写真8
写真8

実は、このカードは、スプレッドの下に置いてあった相手カードです。私は、ここのテクニックが非常に気に入っています。

  1. 左手は取り去ったカードをフェイスダウンで左手に持っています。
    ここから少し、スピーディに動きます。
    つまり、右横に置いたパケットを右手で取り上げて、それを左手のパケットのトップへ、フェイスダウンで置き、少し揃えて正面のテーブルへフェイスダウンで置きます。
    右手は、少し握った形でテーブルエッジ近くに置きます。
  2. 左手の平を上に向けて、相手の方へ少し差し出して、覚えたカードを尋ねます。
    相手が答えたら、右手の人差指で再びテーブルのフェイスアップカードを押さえます。
  3. そして、左手で、その下のフェイスダウンカードを左横に引き出してフェイスアップにターンします。
    覚えたカードが現われます。
  4. 右手は、すぐに押さえていたフェイスアップのカードを取り上げて、それをフェイスダウンにして正面のデックのトップへ置いて、次に、両手を軽く握った形にして、テーブルエッジに付けます。リラックスポジションです。
    そして、相手を見て、ニコッと笑います。拍手が起こります。

 マーローは、フェイスアップカードをスプレッドの中に差し込ませる代りに、コインをスプレッドの上に落とさせたり、他に、ペン、ナイフ、ミニチュア・カーなどでもこのトリックを演じています。

 このミニ・カーの時は、相手に、スプレッド上にミニ・カーを走らせて、止まった所でカードを分けているようです。

 つまり、置く物は何であろうと、右手は、その置物の右側のカード全てを取り去って、再びその置物を押さえます。

 次は、左手が相手カードと共に、右方向へ動いてカードを集めていき、その置物と相手カードを残して、他のカードを左方向へ取り去ります。

 置物の下に相手カードがあります。

 このトリックのオリジナル・ルーティーンでは、リボンスプレッドを右方向へ分けませんでした。

  1. 右手の指は、スプレッドの上に置いてある物、または、差し込まれたカードの右側に付けます。
  2. 左手は、相手カードをスプレッドの下で、右方向へ移動していきますが、左手の指先で、スプレッドの下で、相手カードを、その置物、または、差し込まれたカードより、さらに右側へ押し込みます。
  3. 次に、左手は、集めたカードとその置物、または、カードを左方向へ取り去ります。
  4. 右手のスプレッドのボトムには相手カードがあります。
    左手でそのボトムカードを前へ出して、右手の下に残っているカードを集めて、先ほど左手で取り去ったカードの上において揃えます。
  5. テーブルの相手カードをフェイスアップにターンします。

 オリジナルのこのルーティーンは、全体に“流れ”と“不思議さ”が感じられません。しかし、“フレキシブル”の方は、マーローが再改良しているのが良く分かります。

"Thirty Five Years Later" p.40~41.

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