古川令

イージー・グライダー

 以前に「お菓子のマジック」という一般向けのマジック商品の開発を引き受けた時に考えたアイデアです。その時に求められたマジックの条件は、テーマがお菓子で原価の制約でパケットマジック、但しあくまで一般向けでダブルリフトやエルムズレーカウントなどの技法はNG。従ってグライドもNGでしたが、技法を簡単にできる方法を考えてみました。

 グライドは、ここで説明するまでもない基本技法で、フェイスアップで保持したデックのボトムのカードを薬指などでスライドさせて、ボトムから2枚目のカードを裏向けでボトムのカードのように抜き出す技法です(私は左利きなので右手でグライドします)。

 今回ご紹介するグライドを簡単にする加工は、グライドするカードの長辺を0.5mm程度のショートカードにする事です。マジシャンに「グライド加工したカードです」と言ってグライドを行ってもらうと、全員がその効果に驚きます。表面の加工だと思って調べてもなかなか判らない人が多く、タネを明かすとなるほどと感心されます。

 グライドがあまり使われない理由には、簡単な技法の割に意外に不安定な要素がある事かと思いますが、この加工では2枚目のカードがずれる事は全くなく、本当に安易な技法になります。微妙な幅の違いでだけで大きな効果となる面白さをご体感頂ければと思います。

 これだけの記事では紙面が余るので、このグライド加工の使用例としてハーマンカウントを使わないワイルドカード風の現象(5枚のカードのカラーチェンジ)を紹介します。

現象:5枚のカードすべてが別のカードに変化します。ここではモノクロの魚がすべて赤くなる演出で説明します。

≪準備≫
赤の魚のカード4枚と赤とモノクロの魚のダブルフェイスカード(DF)を準備します。カードの作り方は、パソコンに取り込んだ画像を透明シールにプリントアウトし、ブランクカードに貼るのがお勧めで、お好きなカードを作って下さい。
 カードの長辺(サイド)を0.5mm程度わずかにカットしたグライド加工のDFをボトムにセットします。


≪演技≫
「5匹の魚がいます」とボトムのカードを見せて、グライドで下から2枚目のカードを1枚ずつ裏向けにテーブルに置いていきます。3枚目までは同様に行い、4枚目(最後2枚の状態)ではトップのカードをテーブルに置きながら、ボトムのDFを90度回転させて、最後のカードもモノクロカードである事を観客に示します。
 この動作の移行状態が右の写真です。DFはこの向きのままで、少し持ち上げて観客に示す一連の動作で、赤いカードが観客にフラッシュしないタイミングで行います。その後DFを右手(皆様は左手)の指の上に乗せます。<下の写真1>

 下の写真のように、DFの改めの後にカラーチェンジをします。
まずDFの面が変わらないように手の中をくぐらせ、親指でカードを押し出します。次にカードを少し手の平側にのせ、「おまじないをかけると赤くなります」と言いながら、カードをそのまま握って同様の動作を行います。カードの面が変わり赤いカードに変化、そのままカードを手の平に乗せ、魚が赤くなった事を示します。

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 2枚目以降は、ワイルドカードのようにモノクロカードを赤いカードに触れさせて色を変えていきます。テーブルのカードを1枚取り上げ、DFの上に裏向けに重ね,カードを擦り合わすおまじないをかけ、上のカードをめくって2枚目も赤くなった事を示します。2枚のカードの中でDFの方をテーブルに置き、残った1枚をフェイスアップのままディーリングポジションで持ちます。その上にテーブルの1枚のカードを裏向けで重ね、表返すと3枚目も赤くなります。最後は、両手に赤くなったカードを持ち、テーブルの2枚のカードをそれぞれすくい上げ、おまじないの後、両手を返しながら赤くなった4枚のカードを表向きにテーブルに落として終わります。

 最後に魚のカードにしたのは、飼料添加用のアスタキサンチン(養殖のサケを赤くする色素) を作っているアメリカの企業を訪問する事になり、会食でのマジック用に作成しました。
 JALのロゴが鶴のマークに変わった時、ロゴが変化するパケットを作ってマジックが好きなJAL社員に差し上げて喜ばれた事もあります。蛹が色々な蝶になるのもいいですし、相手に合わせたちょっとしたアレンジができるのが、オリジナルのパケットを作成するメリットです。

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