古川令

バックパーム

 パームについては、「物理的に見えるかどうか」が大事である事は言うまでもありませんが、私は「心理的に見えるかどうか?」がより重要と考えています。 ここでは私が実際に行っているバックパームについて、一般的な方法と違う部分の説明を中心に、ファンプロダクションと一枚出しの場合に分けて書いてみます(5枚カードなどではなく、あくまでプロダクションでの方法です)。

<ミリオンカードのメリット>

 左の<写真1>が一般的なバックパームで、右の<写真2>が私の方法です(私は左利きなので左手の写真でご容赦ください)。

写真1
写真1
写真2
写真2

 <写真2>はファンを捨てた時の状態ですが、指にはほとんど力を入れず、カードもほとんど曲がっていませんので、指の間からカードのバックが見えています。 マジシャンに「これが私のバックパームの状態です」と間近で見せると、指の間からカードが丸見えなので多くの方が驚きます。 しかし、ステージではバックパームの手を静止した状態で見せる訳ではありませんし、カードを捨てる一連の動きと捨てた後の脱力感によって、指の間のカードは気になりません(心理的には見えません)。

 20枚以上のカードをバックパームして物理的にカードを隠すには、よほど柔らかいカードを使わない限り、指に力を入れる必要があります。 指が閉じたパームを決して否定しませんが、指や手首に力が入った状態は微妙に不自然な雰囲気があると思います。

 実は、子供の頃にピンと伸ばした手からのファンプロダクションを見て、そのテクニックやカードのファンの出現の美しさには感動しましたが、不思議さはあまり感じなかった印象が私には強く残っています。 ミリオンカードをスライハンドの「テクニック」として見せる場合には気にする必要が無いかも知れませんが、「空の手からカードが出現する不思議さ」にこだわる場合には、物理的に見えるかどうかよりも,自然な脱力感で心理的見えない工夫が重要と私は考えています。

<一枚出し>

 一枚出しの場合もファンプロダクションと同じ位置でホールドしている方が多いと思いますが、私が大学のクラブで習った方法は、ファンプロダクションとは違って、<写真3>のように指の付け根に挟みます。 当時はこの方法を島田晴夫方式と習いましたが、その真偽は不明です。

写真3
写真3

 カードの弾性を利用して保持するところがポイントで、カードを人指し指と小指で挟むというよりは、カード自身の弾力で指の付け根にカードが挟まっているというイメージです。指の付け根がカードの長辺の中央に位置する事がポイントで、指に力を入れる事なくカードを安定的に保持できます。

 このホールドの特徴は、どうしても甘くなりがちな外側からの視線の角度に対して強い事です。 さらに、通常の浅い位置でのパームよりも、より素早くカードのプロダクションができます。 また、指でカードを押さえて保持している訳ではないので、どの指もある程度自由に動かせるというメリットもあります。 ちょっと高等テクニックになりますが、バックパームした状態で、プロダクションしたカードを空中にスピンさせたり、指先で回転させたりする事も可能となります。 これらのテクニックについては別の機会にでも紹介できればと思います。

 バックパームだけでマジックが成立する訳ではなく、自然な脱力感や自然な動作との組み合わせが肝要と思います。 残念ながら、理論に実践が伴っているとは思っておらず、ファンプロダクションなどの基本技法にしても、まだまだ改良すべき点があるとの認識で、ミリオンカードで「無限の不思議」が表現できるかどうかは、私の「永遠のテーマ」です。

次回はフロントパームについて、私がこだわるポイントを紹介します。

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