ボナ植木

◎思いやり理論3
~その物体は一体何なのか?~

この理論はかなり重要です。ある意味、マジックの見せ方の肝といってもいいかもしれません。
ナポレオンズの初期のイリュージョンに人体交換ボックスがあります。
これは「組み立て式のコンテナ」という概念で作りました。

組み立てることにより改めになり、コンテナということで「箱はマジックの箱ではなくコンテナ箱」と観客の目には映ります。

もちろん仕掛けがあるとはわかっていたとしても観客にとってすんなりその物体を理解することができるからです。いらん詮索をさせることは思いやりに欠けます。

では既存のマジックの製品をどう演出をつけてみせるか。
その方法を解説します。
まずその物体は一体何なのか? 考えてみましょう。
売られている製品でも「それが何なのか」と考えることはとても重要です。

カードならそれはトランプで通用しますから、観客は誰でも認識できます。コインも日常あるものです。
あと、ジグソーパズルのマジックは理解しやすいものです。
しかし実際にマジックの道具は変なものばかりです。
この写真のサイコロはどうでしょう。
いくら綺麗なものでもあまり見かけないサイコロだと不自然です。

写真1

この製品は上に出た目がエレクトロニクスでわかるものです。

あやしいですよね?
ラスベガスで使っているような透明なものや普通の白いデザインなら怪しまれないですが。

そこでどうしたらいいかというと、ストーリーを考えましょう、ということなのです。

例えば――
「私はこのサイコロを箱根の寄せ木細工屋でみつけました」と話します。そのためにそれらしい箱をわざわざ作るのです。

写真2

写真の箱は、わざわざ作ったものです。
文字もネットから実際にある寄せ木細工屋さんのものを探して印刷します。
ここまですると、誰もサイコロを怪しいとは思いません。

またチャイナリングの場合、私は始める前に「放下せん」にある「金輪の曲」の絵を見せます。

写真3

「これからお見せするものはなんと江戸時代からあったマジックです。この絵は300年前の大道芸の絵です。いまもこのマジックは連綿と続けられています」といってからリングを取り出します。

またテンヨー製品の『プランジャー』という物を使う時は写真のようなおもちゃのトイレを使います。
さらにプランジャーの柄の部分を長くします。その方がリアルですから。トイレすっぽんの小型版です。

写真4

意味がわかるしカードを便座の蓋に置くことによって見やすくなります。
実は同じ原理で本物のプランジャーでジャンボカード当てるマジックも考えました。

またアイマジック製品に「レシピ」という封筒があります。
カードやお札をスイッチするための封筒です。
もちろんそれは見ため封筒ですから怪しまれません。

しかし、私は封筒の上下がわかりやすいように「のし」と、スイッチ側――つまりミシン目のある方に書いておきます。

もちろん観客の前で何か最初に入れる時は、この「のし」の文字は裏にして見せないように入れます。

写真5

あとから封を切るとき公明正大にミシン目の部分を切ることができるし、観客に破いてもらうこともできます。
つまり声を大にしていいたいことは、
なぜ演出を考えないでそのまま使ってしまうのか!
ということです。
ほんとになんだかわからない物は「変なおもちゃ」あるいは「意味不明の抽象芸術オブジェ」にしてしまうか「自分にもわからないものを拾ってきたんですが……」でもいいのです。

観客が「何あれ?」と不審に思う前に、納得させておくことが大切です。
あれ? じゃ「頭ぐるぐる」って何?
あれですか?
あれは「頭がぐるぐる回る装置」でいいんです!!

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